TPP交渉 嘆かわしい公約の軽さ


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 何度でも指摘せねばならない。

 「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」
 自民党は2012年12月の総選挙で、環太平洋連携協定(TPP)交渉をめぐり、こう公約した。
 しかし、ヤマ場を迎えたとされる日米交渉の実態は、公約違反を覆い隠そうとする日本が、必死に成果を誇張する劇を演じているかのように見える。
 相撲に例えれば、日本は巨漢の米国に押し出され、桟敷席まで吹っ飛ばされた格好ではないか。
 日米両政府は、日本の牛肉関税を38・5%から半分程度の20%前後に引き下げる方向で詰めている。焦点は、輸入急増による畜産農家への影響を抑える緊急輸入制限(セーフガード)を、米国がどの水準まで認めるかに移っている。
 オーストラリアと大筋合意した経済連携協定(EPA)で20%前後に引き下げた日本側はそれを上回る譲歩はできないと主張し、早期妥結を優先する米国側が10%未満の主張を降ろした。米国が歩み寄った形だが、聖域を守れず、大幅譲歩したのは日本の側である。
 甘利明TPP担当相が米側のフロマン米通商代表を押し切ったとの報道もあるが、本末転倒だ。関税下げの割合でせめぎ合う交渉など、公約違反の上塗りでしかない。
 安倍政権はコメや麦、サトウキビ、牛肉、豚肉を「聖域」に位置付け、関税維持は譲れないと国民に説明してきた。国会も「聖域が守られない場合は交渉からの脱退を辞さない」と決議している。公約と国会決議を踏まえるなら、日本には対米交渉から撤退する選択肢しか残らないはずだ。
 それにしても、公約とはこれほどにも軽いものなのか。嘆かわしい限りである。
 懸案の豚肉では、大幅な関税引き下げを求める米側と日本が対立している。ここでも関税維持は崩れており、譲歩は避けられまい。そして、畜産、養豚農家に対する所得補償など、国民の血税を使った一時しのぎの対応策が繰り出されるだろう。二重の意味で、公約違反の罪は重い。
 優良な牛、豚を育て、一部はブランドに押し上げた県内の畜産、養豚農家への打撃も計り知れない。
 オバマ大統領、安倍晋三首相は早期妥結を双方の当局者に指示しているが、公約を打ち捨てて国益を損なう安易な妥協を繰り返すなら、日本はきっぱり撤退すべきだ。