可視化試案 全事件の全過程対象に


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 本気で冤罪(えんざい)をなくそうという気はあるのだろうか。

 新たな捜査や公判の在り方を検討している法制審議会特別部会に法務省が試案を示した。
 試案は取り調べ全過程の録音・録画(可視化)を義務付けた。ただし、警察が可視化しなければならないのは裁判員裁判の対象事件だけで、起訴された全ての事件の3%にすぎない。それに、取調官の裁量で可視化を除外できるなど幅広い例外を規定している。
 これでは冤罪を防ぐという当初の目的が骨抜きにされかねない。全ての過程を可視化するよう強く求める。
 大阪地検特捜部検事の証拠改ざん事件が特別部会設置のきっかけとなった。その後も苛酷(かこく)な取り調べが問題になった袴田事件の再審開始決定で、全面可視化を求める声が高まっている。検察は現在、裁判員裁判のほか、特捜部・特別刑事部の事件、知的障がい者の事件でも可視化を試行している。警察も2008年に試行を始め、12年に否認事件を対象に加えている。
 今回の試案は、可視化の対象を殺人や放火など裁判員裁判制度が適用される場合に限っている。このため郵便不正事件で冤罪被害に遭った村木厚子さんのような、在宅での取り調べや参考人聴取は含まれない。誤認逮捕を生んだパソコン遠隔操作事件のようなケースも該当しない。試案は現在の試行より後退している。
 さらに暴力団犯罪や取調官が容疑者から十分な供述を得られないと判断すれば除外される。取調官の裁量で拡大解釈され、例外が広がる可能性がある。警察の意向に沿った規定だというが本末転倒だ。これでは冤罪を招く取り調べ方法の問題点は解決されない。
 供述に変わって客観的証拠を収集する仕組みを求める捜査当局の意向を入れ、電話や電子メールを傍受できる犯罪を大幅に拡大した。組織性が疑われる殺人や放火、強盗、振り込め詐欺、組織窃盗などを追加し現行の4から12項目にした。可視化の範囲を狭めながら、傍受対象を拡大するのはバランスを欠くし、通信の秘密を侵しプライバシーを侵害する。
 刑事司法に対する国民の不信感を払拭(ふっしょく)するために、冤罪を防ぐという原点に返り、原則的に全ての事件の全取り調べ過程を可視化するよう求める。