新米比軍事協定 平和的解決の規範確立を


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 米国、フィリピン両政府は米軍派遣の拡大を図る新軍事協定を締結した。冷戦後、フィリピンから完全撤退した米軍が22年ぶりに回帰する。オバマ政権のアジア重視戦略を浸透させ、東シナ海や南シナ海で周辺国と対立する中国をけん制する狙いが透けて見える。

 新協定に強い違和感を覚える。南シナ海の領有権問題をめぐって、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が2002年に平和、安定を目指す「行動宣言」に署名し、平和的解決と緊張を高める行動の自制が既定方針だからだ。
 ASEANと中国は昨秋、法的拘束力のある「行動規範」策定に向け公式協議を始めた。粘り強い外交努力を強く支持する。
 米比両国は1951年に相互防衛条約を締結し今も有効だ。しかしフィリピンでは86年に民衆蜂起によってマルコス独裁政権(当時)が打倒され、民族主義が高揚する中で制定された新憲法は「外国軍基地の原則禁止」を明記した。
 91年の米比基地協定の期限切れ後は、外国軍の常時駐留が禁じられていた。新協定に基づき派遣される米軍はフィリピン軍の全基地を使用できる。補給・装備物資を常備する施設の建設や、航空機や艦船の巡回派遣も可能という。
 オバマ米大統領は会見で「新協定はフィリピンの防衛能力強化や自然災害への対応や人道支援にも貢献する。(新協定下で)米国は古い基地を再建したり、新たな基地を設けたりはしない」と強調した。中国は「中国封じ込めではない」と冷静に受け止めているが、今後、米比と中国の間で緊張が高まる可能性も否めない。
 南シナ海の中央に位置する南沙諸島には100以上の島や環礁、岩礁があり、天然ガスや石油が豊富とされる。ベトナムが最多の20以上の島や礁を実効支配し、フィリピンが9、マレーシアが5以上、中国が7以上を支配し、台湾は南沙最大の太平島を支配している。それぞれが実行支配の正当性を主張しているため2国間協議ではらちが明かず、各国が対等な多国間協議による解決に現実味がある。
 ASEAN行動規範の確立が急務だ。南シナ海の問題は尖閣問題の試金石とも言え、沖縄と日本政府にとっても人ごとではない。憎悪の連鎖を招く武力衝突は回避し、平和的解決に向けたASEANの努力こそ強力に支援すべきだ。