市町村崩壊危機 地域再生策の再構築急げ


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 地方から大都市への人口流出が現在のペースで続けば、30年間で20~30代の女性が半分以下に減る自治体は896市区町村に上るとの試算を、有識者らでつくる「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)の分科会が発表した。

 増田氏は記者会見で「自治体の運営が難しくなり、将来消滅する可能性がある」と地域崩壊の危機を指摘、警鐘を鳴らした。確かに過疎化や少子高齢化に伴う地域社会の衰退は国家の命運をも左右しかねない。提言を政府や地方自治体、経済界、労働界など全ての関係機関は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 896市区町村の中には離島を中心に県内10自治体も含まれており人ごとではない。危機感を県内の全自治体で共有すべきだろう。
 分科会は人口流出に歯止めをかけるため、魅力ある地方拠点都市をつくるなど東京一極集中の是正を提言。少子化対策として、2012年に1・41となっている合計特殊出生率の1・8への引き上げや30代後半の夫婦合計で年収500万円の実現など、具体的数値目標を盛り込んだ提言も公表した。
 若年世代の希望に沿う形で結婚、出産、育児がしやすい環境を整える必要がある。地方においては、独身者や子育て世代が定住可能な雇用の創出や教育環境の整備、医療福祉の充実など、抜本的な地域再生策の再構築が急務だ。
 政策研究大学院大の松谷明彦名誉教授は、重要なのは「大都市で教育や技能を身に付けた若者が戻って能力を生かせる環境を地方に整えることだ」と述べ、若者が多様な働き方ができる地域環境の整備を求める。傾聴に値する指摘だ。
 提言を踏まえ、国も地方自治体も、地域社会の疲弊や住民の閉塞(へいそく)感を解消する、骨太で持続可能な対策を確立すべきだろう。
 持続可能な地域や暮らしの維持という観点で言えば、増税が先行し社会保障の将来像が一向に見えない税と社会保障の一体改革の在り方は疑問だ。環太平洋連携協定(TPP)についても、例外なき関税撤廃の原則が日本農業に壊滅的打撃をもたらしかねないほか、食の安全・医療・サービスなど多くの分野の自由化が社会の在り方に影響を及ぼすと懸念されている。
 今回の提言は人口問題にとどまらず、この国が目指すべき国家像や地域社会の姿を掘り下げる国民的議論のきっかけにすべきだ。