法制局長官交代 「法の番人」の権威取り戻せ


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 小松一郎内閣法制局長官が体調不良で退任し、後任に横畠裕介内閣法制次長が昇格した。横畠氏には「法の番人」としての法制局の使命をぜひ再認識してもらいたい。

 集団的自衛権の行使容認に積極的な論者だった小松氏を昨年8月、駐フランス大使から法制局長官に登用したのは安倍晋三首相だ。外務省からの起用も、法制局未経験者の就任も初めてという異例の人事で、憲法解釈の変更による行使容認を急ぎたい安倍首相によるあまりに恣意(しい)的な人事だとして批判された。
 小松氏以前の長官は、集団的自衛権行使は必要最小限度の自衛権の範囲を超え、憲法解釈で認められないとの立場を示してきた。だが小松氏は就任後、解釈変更に含みを持たせる答弁を繰り返し、「首相方針に従う」と公言した。
 小松氏は国会議員との口論などその言動も問題視されていたが、今年1月に腫瘍が見つかり、入院。2月に復帰していたが、治療に専念したいとして辞職を申し出た。
 辞任について安倍政権は「交代したからといって政府の対応に変化がないようにするのが政府、与党の責任だ」(石破茂自民党幹事長)として集団的自衛権の議論に影響はないとしているが、新長官就任のこの機会に、組織を本来の姿に戻すべきときではないか。
 内閣法制局は、法制面から内閣を補佐する政府の「法律顧問」だ。憲法解釈や政策をめぐる法律問題で意見を述べ、政府が提出する法案や政令案、条約案が憲法に違反していないか、他の法律と矛盾していないかなどを審査している。
 政府の憲法解釈を一手に担い、時には与党と対立も辞さず、首相も説得させてきた。憲法9条に基づき、「集団的自衛権行使を含む海外での武力行使はできない」との解釈を一貫して示し、歴代政権もそれを重んじてきた歴史がある。
 検事出身で、法制局で憲法解釈を長く担当してきた横畠氏は就任に当たり、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更を前向きに検討する考えを示したが、この姿勢は疑問だ。
 新長官の最大の任務は、集団的自衛権の行使は憲法解釈上、認められないという見解が揺るがないことを明示し、立憲主義を無視した安倍政権の愚行に歯止めをかけることであろう。法律の専門家集団としての権威を今こそ取り戻すべきだ。「法の番人」が「権力の侍従」と化してはならない。