中越衝突 平和的解決を確認したい


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 いたずらに緊張を高め対立をあおっても、大きく見れば当事国双方に益するところはない。国民の排外感情を人気取りに利用する政治家や、「死の商人」たる軍需産業を利するばかりだ。そんな愚を犯してはならない。

 西沙諸島での中越艦船衝突に端を発するベトナム国内の反中国デモや暴動が収束の兆しを見せ始めた。一連の経過で双方とも深刻な打撃を受け、緊張高進の危険性を痛感したはずだ。この機に平和的手段での紛争解決を確認し、その枠組み構築へ一気に前進してもらいたい。
 暴動についてベトナム国営メディアは、同国中部での中国人とベトナム人の衝突により1人死亡、149人負傷と伝えている。激しい衝突が起きたのは間違いない。
 一連のデモでは中国系企業だけでなく台湾系、香港系、ひいては日系企業まで破壊行為を受けた。
 その被害者は企業だけではない。温和なベトナムのイメージも傷付いてしまった。外国投資が冷え込めば経済が打撃を被り、当のベトナム自身が被害を受ける。
 ここへ来てベトナム政府も治安維持へ全力を挙げるよう関係当局に指示した。閉鎖していた工業団地も操業を再開しつつある。混乱を速やかに収束させてほしい。
 とはいえ、事態の一義的責任は中国にある。中国は2日、石油掘削設備を現場海域に搬入、近隣への外国船進入禁止を一方的に通告した。反発したベトナムが沿岸警備隊の船などを送ったが、中国艦船と衝突した。ベトナムは中国側の意図的な体当たりと主張する。
 西沙諸島では領有権をめぐり中越両国が1974年に武力衝突、その後中国が全域を実効支配した。近年、緊張が高まったが、李克強中国首相は昨年10月、ベトナムに出向き、「海洋共同開発」に合意した。それなのに今回の掘削だ。関係改善に向けた努力を踏みにじるものと言われても仕方ない。
 米高官が述べた通り、「中国と良好な関係を築きたいと願っている国々も、挑発的・攻撃的行動で考えを変えつつある」とすれば、中国自身にとっても深刻な打撃であろう。
 中国と東南アジア各国は、緊張を高める行動の自制をうたう南シナ海行動宣言を発した。昨年には、それに法的拘束力を持たせる「行動規範」策定に向けた公式協議に入った。今回の事態を反省するなら、その策定を急ぐべきだ。