厚木基地訴訟判決 米軍にも「法の支配」貫徹を

 米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県)の騒音被害をめぐる第4次厚木基地騒音訴訟の判決で、横浜地裁は自衛隊機の夜間飛行差し止めを命じた。全国の基地騒音訴訟で初の差し止め判断であり、一定の評価はできる。

 しかし沖縄の立場からすれば、判決を手放しには喜べない。米軍機への飛行差し止め請求については、国の支配が及ばない第三者に対する原告の主張は失当であるとの、いわゆる「第三者行為論」を事実上踏襲し、請求を退けた形だ。
 最高裁は1993年、基地騒音訴訟の飛行差し止め請求について初判断を示し、自衛隊機の運用は「防衛庁長官(当時)に委ねられた公権力の行使であり、民事上の請求としては不適法」と判断。米軍機については「第三者行為論」を適用した。その後同種訴訟で20年以上、請求が退けられている。
 裁判所が米軍機の飛行差し止めを避けることは、人権の砦(とりで)としての使命と、主権国家の矜持(きょうじ)、権利をかなぐり捨てるようなものだ。
 裁判官はそろそろ住民の命と静穏な環境を守るために、思考停止状態から踏み出していいころだ。
 一つ参考事例がある。94年2月に第1次嘉手納基地爆音訴訟の判決を下した那覇地裁沖縄支部の裁判長だった瀬木比呂志氏(明治大法科大学院専任教授)が、飛行差し止めを可能とする法理を判決文の草稿に記していたことを昨年、著書で明らかにしたのだ。
 瀬木氏はその中で「重大な健康侵害が生じた場合には、差し止めも認められるという一般論を立て、判例に(…略)穴を開けたいと考えていた」と記している。
 残念ながら、嘉手納爆音訴訟の直前に出た厚木基地訴訟の最高裁判決が米軍機の騒音差し止め請求を「失当」と判断したため逡巡(しゅんじゅん)し、新たな法理を打ち出せなかった。
 しかし今からでも遅くはない。後進の裁判官は今回の横浜地裁判決を機に20年前の“幻の法理”に磨きを掛け、今度こそ風穴を開けるとの気概を見せてほしい。
 憲法よりも日米安保条約を、爆音被害に苦しむ住民の人権よりも米軍機の飛行を優先する不条理を放置してはならない。米軍が圧倒的優位に立つ日米地位協定を抜本的に改定し、米軍に日本の国内法を完全に適用して「法の支配」を貫徹できるようにすべきだ。政府、国会に徹底論議を求めたい。