竹富分離決定 妥当な解決を国は阻むな


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 教科書問題で県教育委員会は竹富町教育委員会を八重山採択地区から分離し、単独地区とすることを決めた。混乱の終息を最優先した判断を高く評価する。

 下村博文文科相は竹富の単独採択を阻みたい考えを露骨に示してきた。自民党内でも分離を疑問視する声がある。だが憲法92条は「地方自治の本旨」尊重をうたい、自治体の主体性と住民意思を最大限尊重するよう求める。「地方自治の本旨」に照らせば、自治体が工夫して導いた解決を国が不当に介入して阻害するのは断じて許されない。政府与党は憲法の重みを知るべきだ。
 問題は、八重山採択地区協議会会長が規定を無視して独断で採択手順を変更したことに始まった。極めて保守色の強い育鵬社版教科書を恣意(しい)的に選ぼうとしたのは明らかだ。竹富町教委は選定に異を唱え、協議は決裂した。竹富は国による教科書の無償措置を受けず、寄付を得て別の教科書を配った。
 下村氏らは教科書無償措置法に違反すると強弁するが、無償の措置を受けていないのに、無償措置法違反とは矛盾も甚だしい。
 地方教育行政法は市町村教委の教科書選定を定める。この法に照らせば竹富は明らかに合法だ。
 一般に、二つの法の間で矛盾がある場合、制定が後の法を優先する「後法優越の原則」が適用される。だがこれは同レベルの法律の場合だ。地方教育行政法は自治体の「教育行政の基本を定め」(第1条)ており、無償措置法は無償で国が配る場合の手続きを定めるにすぎない。個別法より基本法が優先するのは法律論の初歩だ。
 政府は竹富の措置について「違法とは言えない」とする答弁を2011年に閣議決定し、先日も内閣法制局が答弁は有効と述べた。だが下村氏ら自民党文教族は違法だと非難し続ける。権柄ずくの、理性に欠ける態度と言うほかない。
 これに対し県教委の判断は冷静かつ妥当だ。島嶼(とうしょ)町という竹富の特性を挙げ、独自の教科書に対するニーズも考えられるとした。二つの法の矛盾を解消し、かつ生徒の平穏も守る英断であり、敬意を表したい。
 教科書無償措置法改正に伴う政令が近く出る。保守的な教科書が採択されるよう、採択地区の構成を国が恣意的に定める政令を出すのではないか。そんな危惧を聞く。政治家の利益を図るための、教育への政治介入は許されない。