タイの政変 逆境を好機に転じたい


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 緊急避難的な措置だとしても、首肯しかねる。タイで軍がクーデターを起こした。政府派・反政府派の代表を招いた打開策協議が不調に終わったためというが、憲法を停止するのでは、立憲国家・法治国家とは言い難い。

 タイの印象は傷ついた。国民もうんざりしていよう。逆に言えばその反発は政治風土を抜本的に改める資源にもなる。これを機に対話で対立を克服する政治を確立してほしい。
 騒動の直接的なきっかけは、11月に下院が国外逃亡中のタクシン前首相らの恩赦法案を可決したことだ。恩赦に反対する反政府派のデモが続発、これまでに約30人が死亡、800人以上が負傷した。
 タクシン氏の妹のインラック首相は昨年末に下院を解散し、2月に総選挙を行ったが、反政府派の妨害により一部選挙区で投票ができなかった。憲法裁判所は政府高官人事をめぐって首相が職権を乱用したとして違憲判決を下し、インラック氏は即時失職した。
 軍は今月20日、全土に戒厳令を発し、各勢力の代表を招いて「選挙を経ずに暫定政権を樹立、9カ月以内に総選挙」との打開案を示した。だが不調に終わり、軍はクーデターを宣言した。
 タイでは、かつては軍と学生の民主化運動の衝突などがあったが、1992年以降は安定し、東南アジアの「民主主義の優等生」と称された。だが近年は深い亀裂がある。地方の農民など貧困層がタクシン氏を支持し、旧来の支配層である都市部エリートや知識人がこれに反発するという構図が続く。
 2001年以降、タクシン派が選挙で勝利し、憲法裁による解党命令など選挙以外の方法で反タクシン派が政権を取るという形を繰り返してきた。専門家によると、背景にあるのは「カネ、コネ、暴力」という政治文化だという。
 その対立の影響は深刻だ。タイの国内総生産は今年1~3月期で前年同期比0・6%減となった。中でも外資の直接投資は9割近くも落ち込んだ。観光も大きな打撃を受けている。政治対立が結局、国民すべてを被害者にしているのだ。
 政治的ポストがカネで動く風土を抜本的に改める、実効性ある対策を打ち出したい。それが対立の大本(おおもと)を断ち切ることになろう。そして対話により国民的和解を達成してほしい。その姿こそ、何より「ほほ笑みの国」にふさわしい。