南洋群島慰霊祭 住民犠牲の悲劇繰り返すな


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 1944年に太平洋戦争で旧南洋群島の住民が地上戦に巻き込まれてからことしで70年を迎える。サイパン島では26日に第45回南洋群島沖縄県人戦没者慰霊祭が行われた。今回は節目の年とあって、帰還者だけでなく、戦没者の子どもや孫など幅広い世代が参加し、昨年の約2倍の人が現地を訪れた。

 この機会に南洋で起きた戦争に思いを致したい。同じ悲劇を二度と繰り返さないことを県民挙げて誓いたい。
 サイパンの戦闘で在留邦人2万人のうち8千から1万人が犠牲になった。その中でも約6千人の犠牲者は県出身者とみられている。半数以上の犠牲者が県出身者だったのは、サトウキビ栽培などで多くの人が移住していたためだ。
 激しい地上戦でサイパン島は焼き尽くされ、島も海も住民らの血で染まった。追い詰められた住民は壕から壕へと逃げ惑い、最北端の崖から身を投げたり、手りゅう弾を爆発させたりして命を絶つ人が相次いだ。住民の避難壕では、後から入ってきた日本兵が泣く子の親に「敵に見つかる。殺せ」と脅し、幼い命が奪われた。
 この悲劇が1年後に再び沖縄で起こる。住民を巻き込んでの国内唯一の地上戦で全戦没者約20万人のうち、沖縄の一般住民約9万4千人が犠牲になった。沖縄は米軍にとって日本本土の攻撃に不可欠な拠点であり、日本軍にとっては本土決戦まで時間を稼ぐ「捨て石」だった。捨て石にされた南洋の戦争と沖縄戦に通じる教訓は「軍隊は住民を守らない」ということだ。
 防衛省は22日、鹿児島県・奄美群島の無人島で陸海空3自衛隊による離島奪還訓練を始めた。政府は離島防衛体制の強化をアピールするが、いたずらに中国など周辺国を刺激し、東アジアの安全保障環境を不安定化しないか危惧する。有人島で戦闘が起きれば間違いなく住民が巻き込まれる。軍隊は領土、領海を守るのが主目的で、住民保護は二の次だからだ。わたしたちは南洋、沖縄戦の教訓に学ばねばならない。
 慰霊祭では帰還者会長だった故・宜野座朝憲さんの長男・憲一さんが遺族を代表してこう述べた。「子や孫に南洋のことを伝えることと現地の人と友好親善を深めることに取り組んでいく」。日本政府がなすべきことは軍事訓練ではなく、悲劇を記憶にとどめ、周辺国と友好関係を深めることだ。県民と不戦の誓いをあらたにしたい。