「自衛権」首相説明 歯止め利かない危うさ


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 集団的自衛権の行使に歯止めなど利かないことが鮮明になってきた。安倍晋三首相が繰り返す「限定的な行使」は、もはや机上の空論ではないか。集団的自衛権の行使容認を目指す安倍首相の姿勢をただす本格的な国会論戦が衆参両院で始まった。

 政府が示した行使容認に向けた15事例を超えた新たな事例が早くも増殖し、拡大解釈の懸念が強まっている。国民を守る方法がなぜ集団的自衛権でなければならないのか、首相の説明は説得力が乏しい。
 安倍首相は15日の会見で、乳児を抱く母子が描かれたイラストを掲げ、紛争地から退避する日本人が乗る米艦を自衛隊が守る必要性を強調した。最大の同盟国である米艦だけを挙げ、「限定的容認」をにじませる演出を施した。
 だが、首相は28日の国会で、「日本人が乗っていない船を護衛できないということはあり得ない」と述べ、邦人が乗らない米艦も護衛対象との考えを示した。
 さらに、首相は「一言も米国の船以外は駄目だと言っていない」と述べ、米国以外の船でも護衛対象に含む考えを新たに示した。
 朝令暮改ではないか。論拠に乏しく、強引さが目立つ首相の答弁によって、米艦防護の事例は大幅に範囲が広がり、「限定的容認」の縛りが事実上、骨抜きになった。
 首相の答弁を聞くと、集団的自衛権の行使容認の目的は、国民の命を守ることより、米軍との軍事行動の一体化にあるのではないかという疑念が先に立つ。政府内で立憲主義に基づく制約が利かないまま、独走する首相の一存で集団的自衛権の行使事例が際限なく拡大しかねない。極めて危険な政治状況だ。
 さらに、首相は年内を目指している防衛協力指針(ガイドライン)の改定前までに行使容認を閣議決定したいとの意向を示した。
 米政府は、ガイドラインに集団的自衛権行使に関する内容を盛り込むには、その前段で、憲法解釈変更の閣議決定が必要と日本側に伝達している。首相が示した日程は米国の意向と重なり、ここにも米国追従の影がくっきりと浮かんでくる。
 首相の見解は馬脚を現したと言うしかない。国民の命を守るには、個別的自衛権の範囲で十分対応できるとの見方が専門家の間でも根強い。根本的な議論に立ち返り、徹底的な国会審議を尽くすべきだ。