拉致再調査 問われる日本の外交力


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 日本と北朝鮮の両政府は、日本人拉致被害者を全面的に再調査することで合意した。拉致の可能性が否定できない特定失踪者らも含む包括的な内容だ。安否不明の被害者の帰国など具体的な成果に結び付くよう、安倍政権は総力を挙げて取り組んでもらいたい。

 日本政府が認定する被害者は横田めぐみさんら12人(帰国者5人を除く)で、特定失踪者は数百人に上る。横田夫妻に代表されるように被害者家族は高齢化している。期待を裏切られ続けてきた被害者家族の悲痛な思いを、これ以上もてあそぶことは到底許されない。日本政府は、拉致問題の全面解決を図る最後の機会と捉えるべきだ。
 半面、北朝鮮に過度に期待することは禁物だ。2008年に再調査の約束を一方的に破棄した前歴もある。拉致問題はスタートラインに戻ったと、冷静に情勢を分析することも忘れてはならない。
 日朝両政府の今回の合意では、再調査が始まる段階で、人的往来の規制など日本が実施している独自制裁措置を一部解除するとした。金正恩体制の北朝鮮は、疲弊する国内経済の早期立て直しを迫られている。拉致問題を外交カードとして使い、日本の制裁措置を早期に解除させる狙いがあるとされる。
 対外交渉にたけた北朝鮮との今後の折衝が、一筋縄でいかないことは容易に想像できる。北朝鮮のペースに引き込まれないよう、日本政府は警戒を緩めることなく、毅然(きぜん)とした態度で今後の交渉に臨むべきだ。
 今回の日朝合意で不可解なのは、再調査の期限を設けていない点だ。北朝鮮がいたずらに調査を先延ばし、結果を小出しにして、日本の制裁緩和だけが引き出される「取られ損」の懸念も消えない。ましてや、おざなりの調査で拉致問題の幕引きに利用されてはかなわない。制裁緩和に当たって安倍政権は、北朝鮮の再調査の状況をしっかりと見極める必要がある。
 一方、日朝合意が進展した背景には、核・ミサイル開発をめぐる日米韓による包囲網を分断する北朝鮮の思惑も指摘される。国際社会と連携した核問題への厳然たる姿勢を崩すわけにはいかない。日朝接近に気をもむ米韓の疑念払拭(ふっしょく)も課題だ。
 日本には北朝鮮の外交ゲームに付き合っている時間はない。安倍晋三首相は日本の外交力が問われていると肝に銘じてほしい。