精神科病床削減 社会の受け皿整備が重要だ


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 厚生労働省は全国に34万床ある精神科病床について、医療上の必要性は低いのに長期入院する「社会的入院」の解消を図ることで大幅に削減する方針を固めた。

 「地域移行支援病床」という区分を新設し、2016年度以降の診療報酬改定などで病床削減と患者の退院を誘導するという。
 方向性としてはいい。しかし、単なる医療費抑制のための病床削減となっては行き場のない人を生み出す恐れがある。そうならないためには社会の受け皿づくりや財政支援など、きめ細かな環境整備が必要だ。
 厚労省は12年に、4大疾病のがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に精神疾患を加え5大疾病とする方針を示した。精神疾患者は320万人に上る。近年は精神科病院に入院する認知症患者も増えており、国民的な課題だ。
 精神科病床の平均入院日数は先進諸国は数十日がほとんどだが、日本は292日(2012年)と突出して長い。人口当たりの病床数も先進国最多で、長期入院患者の5割が65歳以上の高齢者だ。
 社会的入院が多い要因として、日本では隔離収容政策がとられたことなど精神疾患に対する誤解や偏見が強いことや、受け入れ環境の貧弱さが指摘されている。
 誤解や偏見をなくし、患者だけでなく家族らの苦悩や負担を和らげる仕組みをつくらなければ、解決の道筋は見えてこない。
 厚労省案では、地域移行支援病床では生活能力を向上させる訓練を提供し、外出を自由にして「生活の場」に近い病床として活用して退院を促す。しかし、より重要なのは退院後の支援体制だ。
 欧米諸国は先んじて脱病院化に取り組んだが、受け皿整備が不十分なまま病床を削減したため、路上生活者を増やすなど社会的混乱を引き起こしたとの分析もある。
 国や自治体は受け皿について財源を含め具体的なプランを示すべきだ。現行の自立支援制度で十分なのか、障害年金は拡充しなくていいのか、アウトリーチ(訪問診療)は担保できるのかなど、課題をしっかり検証し、退院後の展望が持てる支援策を確立する必要がある。
 居住や就労では地域社会や企業などの理解と支援も不可欠だ。しかも「移行」だけで終わらせるのではなく、地域で生活し社会参加できるように、社会全体で支える環境を整えていくことが大切だ。