東アジア共同体 沖縄を非軍事の要石に


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 鳩山由紀夫元首相が、これからの沖縄を「東アジアの拠点、平和の要石にしたい」と提起した。

 沖縄が本土防衛の「捨て石」にされた沖縄戦、軍事の要石にされた戦後の米国支配を踏まえ、那覇市内でのフォーラムで発言した。政治、経済、安全保障などで各国が連携し共存共栄を目指す東アジア共同体の理念を、沖縄を拠点に前進させる考えを示したものだ。
 鳩山氏の沖縄認識は、十分うなずける。ただ日中関係は尖閣問題や歴史認識をめぐり険悪な状態にある。「平和の要石」の実現は、安倍晋三首相や政権与党の日中関係正常化への真剣な取り組みなくして困難であるのもまた確かだろう。
 鳩山氏は、安倍政権の安保政策に関し「中国脅威論を日米関係強化や沖縄の米軍基地の必要論に使っているように思えてならない」との懸念を示した。さらに「互いに理解し、助け合う友愛の精神を広げれば、東アジア共同体という考え方に行き着く」とも述べた。
 こうした提起は、紛争の平和的解決を求める国連憲章の精神に合致している。持続可能な沖縄・日本・アジアの平和と安定を達観したものとして率直に評価したい。
 東シナ海や南シナ海の島々の領有権をめぐり中国と周辺国が対立し、深刻な武力衝突を招きかねない状況だが、各国は力の行使を自制し平和的解決に尽くすべきだ。
 東アジア共同体の議論は10年以上前の小泉政権時代からあり、経済界や国民の中には欧州連合(EU)にならって共同体を実現するよう期待する声が少なくない。しかし政府間の議論が十分煮詰まらぬまま推移している。これ以上、外交の不作為は許されない。
 東アジア共同体や「平和の要石」の発想は、県の沖縄振興指針「沖縄21世紀ビジョン」にも沿う。このビジョンは「沖縄が持つ自然、歴史、文化、地理的特性などのソフトパワーは、我が国がアジアとの関係を深化させ信頼を確保していく取り組みにおいて、一層大きな役割を担い貢献する資源になり得る」と明記する。「平和の要石」は、県民挙げて追求する価値のある将来像と言えよう。
 軍事偏重の安保政策に関する国民合意は存在しない。首相は沖縄を非軍事の「平和の要石」と位置づけつつ、集団的自衛権行使の解釈改憲にではなく、東アジア共同体の実現にこそ精力を注ぐべきだ。