死因究明法案 犯罪見逃さない社会を


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 日本が「死因不明社会」だと指摘されて久しい。犯罪死を見過ごすことは隠された殺人を容認することになる。不正義も甚だしい。

 自民、公明両党は死因究明推進基本法案をまとめた。2012年に成立した死因究明推進法に代わるもので、解剖率向上へ具体的な目標を明記した推進計画をつくる。推進法ができてもほとんど改善しなかった反省に立ち、担当相も置いて責任を明確化する。この機に対策を格段に充実させ、「殺人見逃し大国」の汚名を返上したい。
 一般に、人が病院以外で亡くなり、病死か否か一見して判断できない場合を「変死体」(正しくは「異状死体」)と呼ぶ。総死亡の約6分の1に当たる。警察がまず検視し、医師の助言を得て犯罪死か否か判断する。犯罪の疑いが濃いと司法解剖され、感染症や災害などで死亡した疑いがあると行政解剖される。
 だが日本の解剖率は先進国中最低の水準だ。死者全体でみると日本の解剖率は4%程度なのに対し、米国では12%、英国では24%に及ぶ。ドイツも解剖率が低く、「未発覚殺人が発覚数と同程度ある」と批判されるが、それでも8%だ。警察が扱った遺体に限っても日本の解剖率は11%にとどまるが、北欧諸国だと変死体は100%解剖だ。日本では犯罪死の見逃しが相当あるのではないか。
 事実、07年の力士暴行死事件では遺体が解剖されないまま当初は事件性なしと判断された。1980~09年の30年で、犯罪死の見逃しは発覚したものだけで43件あった。未発覚も相当隠れているはずだ。これでは犠牲者も浮かばれない。完全犯罪の殺人者が野放しになることは許容しがたい不正義だ。
 12年には死因究明推進法と同時に死因・身元調査法も成立した。事件性がはっきりしなくても遺族の承諾なしに解剖できるようになったが、解剖率は0・2ポイント上昇したにすぎない。政府は怠慢のそしりを免れない。
 解剖に抵抗があるなら、その前段として遺体をCT撮影する死後画像診断を積極活用するのも一案だ。他国に比べ圧倒的に少ない病理解剖医の養成も必要だろう。
 死因究明の作業は公費で賄う。日本は公費を投じる度合いが他の先進国に比べ低いのだ。不正義を野放しにせぬためにも、感染症をいち早く見抜き社会を守る意味でも、もっと公費を投じていい。