法人税減税 大企業優遇にも程がある


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 政府、与党は法人税の実効税率を引き下げる方針を決めた。消費増税で庶民の負担を引き上げた一方で、大企業の税負担は軽くすることになる。これは景気拡大に功を奏さず、むしろ消費退潮を招くだろう。向かうべき方向が逆だ。

 安倍晋三首相は先進7カ国首脳会議(G7サミット)で法人税の実効税率軽減を表明した。国際公約にして既成事実化し、異論を封じるのが狙いだろうが、議論の回避は危険だ。
 政府、与党は、日本の法人税が高すぎ、これでは国際競争に勝てないと繰り返してきた。だが実際には、必ずしも事実ではない。
 法人所得課税は2013年1月時点で日本が36%、米国が41%、フランスが33%、ドイツが30%であり、ほぼ同水準だ。確かに中国は25%、韓国は24%と低い。だが日本には設備投資減税など370余もの租税特別措置があり、これらを踏まえると、一部製造業では税率は実質約20%で、中韓よりも低いと試算する経済学者もいる。
 さらに言えば、税負担だけを比べるのは適当でない。厚生年金など社会保険料負担を足した額で比較すべきだ。これらを加えた公的負担率で、日本は既に先進国平均の半分程度の低さなのである。
 法人税率が低いと海外企業が日本に進出し、逆に税率が高いと国内企業が海外に脱出する-。こうした印象論も、実は虚構に近い。
 言うまでもなく法人税は「もうけ」にかかる。その高低は、既に軌道に乗った企業の配当と内部留保を上げ下げするにすぎない。経済用語では「投資決定に中立的」と言う。すなわち、新たな企業進出の有無とは相関関係がないのだ。
 国内全産業の売上高合計は12年度で1374兆円、うち売上原価は約1千兆円だ。法人税率を一気に10%下げたとしても、5兆円弱の減である。原価全体のわずか0・5%のコストダウンにすぎず、途上国の人件費の割安感とは比較にならない。これで企業進出を誘発すると見るのは楽観的すぎる。
 法人税軽減が配当を増やす効果はあろう。株を持つ一定水準以上の富裕層には恩恵をもたらす。半面、消費増税で低所得層の負担は重くなった。こうした逆進性が進んだのが、消費税導入以降の過去25年だ。その間、日本経済は「失われた20年」となり、格差は拡大し、社会の一体感は喪失した。目指すべき国家像はむしろこの逆ではないか。