年金財政検証 安心確保へ制度改革急げ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 厚生労働省が5年に1度、公的年金の長期見通しを試算する財政検証結果を公表した。

 働く女性や高齢者が増え経済が成長する標準的なケースでも、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準(所得代替率)は現在の62・7%から2043年度に50・6%となり、約2割も目減りする。それ以降は固定され、04年に政府が公約した所得代替率50%はおおむね維持できるという内容だ。
 しかし一方で、低成長なら所得代替率は50%を大幅に割り込むことも明記した。経済成長や少子化対策など政府の取り組みの成果を期待した甘い見通しであり、年金制度に対する国民の不安に真っ正面から応えたとは言えない。
 財政検証に加え(1)人口減少などに応じて給付を抑制する「マクロ経済スライド」を強化(2)保険料拠出(納付)期間延長(3)厚生年金の加入拡大-の3種類の制度改革を実施した場合の影響も試算した。
 マクロ経済スライドの強化で給付水準は下がるが、次世代には財政的な余裕が出てくる。ただ給付水準があまりにも低下すると、保険料の納付意識自体が低下しかねない懸念も出てくる。
 そこで厚労省は、保険料の納付期間を65歳まで5年延長した場合は保険料負担分が多くなる分、所得代替率は50・6%から57・1%に上昇するとの試算も示した。制度の受け手になる時期を遅らせて支え手を維持する狙いだが、しかしここでも、高齢者雇用をいかに拡充するかが課題になる。
 フリーターやパートなど非正規労働者の厚生年金加入拡大も、支え手を強化すると期待されている。主婦パートの厚生年金加入で、保険料を負担せずに年金を受け取れる「第3号被保険者」(現在約940万人)は25年後には半減するとの見通しも示した。
 しかし、年金が増える一方で保険料負担が生じることに戸惑う主婦も多い。こうした疑問、不安を解消するためにも少子化対策や子育て支援、男性の家事・育児参加促進など、女性が働く環境の整備が不可欠だ。
 医療や介護を含め社会保障全般に展望がなければ、年金制度に対する国民の信頼、安心は得られない。これが社会保障と税の一体改革の目的だったはずだが、増税先行で制度改革は置き去り状態だ。制度設計のやり直しを含め、社会保障の抜本改革も急ぐべきだ。