「岩盤規制」 国民の安全を犠牲にするな


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 哲学なきルール撤廃は、野放図な弱肉強食社会を生み出す。ルールの何が重要で何が重要でないか、見極めなければならない。

 政府の規制改革会議が約230項目の規制緩和策を安倍晋三首相に答申した。政府は成長戦略に盛り込み、労働基準法改正などを進める構えだが、危険だ。国民の生命と健康を犠牲にしかねない。成長政策としても疑問だ。国民の安全の確保へ、むしろかじを逆に切るべきだ。
 答申の目玉の一つがホワイトカラー・エグゼンプション、いわゆる「残業代ゼロ」の導入である。政府は「年収1千万円以上で、高い職業能力を持つ労働者」に限定すると強調する。だが限定は導入時だけで、じきに範囲がなし崩しになるのは目に見えている。
 導入を推進する産業競争力会議の竹中平蔵氏は小泉構造改革の中心人物だ。現在の人材派遣法は当初、高度な専門職に限るといって施行したのに、竹中氏の下で派遣対象が拡大した。こうした緩和の結果が今の非正規労働者の激増だということを忘れてはならない。
 その正規から非正規への置き換えが、本来は消費性向の高い若年層・子育て層の消費控えを招いた。だから労働規制の撤廃・改悪はむしろ長期の消費退潮につながり、成長政策としても愚策なのだ。
 政府は、正当な賃金を払わずに労働者を酷使する「ブラック企業」を追放すると強調していたはずだ。それはポーズだけなのか。
 医療面では、保険診療と保険外の自由診療を併用する「混合診療」を拡大するという。すると、自由診療の数十万~数百万円を負担できる富裕層相手の病院ほど繁栄し、保険診療を重視する病院は経営が苦しくなりかねない。
 そもそもなぜ混合診療拡大か。安倍首相は「多様な先進医療に迅速にアクセスできるようにする」というが、それなら現行の高度先進医療拡充の方が近道ではないか。
 混合診療が拡大すると高い医療費を賄うため民間の医療保険が繁盛する。その市場は米国資本の保険会社が狙う。今の国民皆保険制度が崩壊する懸念もある。米系企業のために国民の健康に必要な制度を壊すのか。
 生命や健康は工業製品などと異なり、1回限りの貴重なものだ。労働時間や医療はそれを守るためのルールである。それを、成長を阻害する「岩盤規制」だと見なすこと自体が間違っている。