ウクライナ情勢 和平機運を後退させるな


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 停戦に向け動きだすかと期待されたウクライナ情勢が、再び不透明感を増している。

 ウクライナ東部ルガンスクの空港近くで14日、政権部隊の兵士を乗せた大型輸送機が親ロシア派武装勢力に撃墜され、搭乗していた49人全員が死亡したという。
 今月7日に親欧米派のペトロ・ポロシェンコ氏が新大統領に就任し、早期停戦へ意欲を示してロシアとの交渉を始めた中での撃墜だ。和平機運が吹っ飛び、戦闘が再び激化しかねないとの懸念が高まっている。
 ポロシェンコ大統領は「テロリストには相応の報復をしなければならない」との声明を出した。政権として難しい決断を迫られる局面だが、ここは冷静さを保ってほしい。報復合戦が始まれば、停戦どころか内戦の危機に陥りかねない。対話姿勢を貫き、決して対立を激化させてはならない。
 混乱の収束に向けては、親ロ派武装勢力に影響力を持つロシアも重要な鍵を握る。
 ロシアはウクライナ東部国境近くに展開していた部隊の3分の2以上を撤退させるなど、緊張緩和に向けた動きも見せてきた。G7各国もロシアへの追加制裁発動に慎重になるなど、対話による事態打開に軌道修正したばかりだ。
 しかしロシア部隊の撤退後も、ロシアから親ロ派武装勢力に退役戦車や重火器など武器の一部が流れていると、ウクライナ政権や欧米諸国は非難している。国際社会はロシアが親ロ派武装勢力の武装解除を促すことを期待したが、ロシアの対応はそれに反している。
 ロシアの狙いは混乱を長期化させてウクライナ政権を疲弊させ、自国の立場を有利にすることにある-との見方もある。
 しかしそうだとすれば、国際社会から孤立するだけだ。これ以上情勢を悪化させ、犠牲者を増やすべきではない。プーチン大統領は国際社会の責任ある指導者として親ロ派勢力へ影響力を発揮し、早期停戦に向かわせるべきだ。
 国際社会はシリア内戦で有効な手だてを打てず、ウクライナの混乱も制止できない状況にある。こうした中でイラクでは、アルカイダ系のイスラム武装勢力が攻勢を強め首都に迫るなど、危機感が広がっている。
 武力ではなく対話や外交で問題解決を図る機運を確立するためにも、ウクライナの早期停戦へ国際社会は働き掛けを強めるときだ。