イラク内乱 宗派対立の解消に英知を


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 中東のイラクが国家分断の危機に瀕(ひん)している。イスラム教シーア派が主導するマリキ政権に対し、スンニ派の過激派「イラク・シリアのイスラム国」が激しく武力闘争を仕掛け事実上内戦化している。

 過激派による無差別テロ、イラク軍による誤爆などで無辜(むこ)の市民の犠牲が拡大すれば、憎悪と報復の悪循環が繰り返されてしまう。戦闘のこれ以上の深刻化を何としても食い止めねばならない。
 首都バグダッドに向けて進撃している「イスラム国」は政府軍と激戦の末、既にイラク第2の都市モスルをはじめ北部地域の広範囲を制圧。軍は北部の主要都市ティクリートなどで空爆を実施、過激派と一進一退の攻防を展開している。自爆テロも続発している。
 「イラク・シリアのイスラム国」は、国際テロ組織アルカイダの流れをくみ、イラクとシリアで活動するイスラム過激派だ。
 イラクで2004年に日本人旅行者を殺害したアルカイダ組織などがつくった「イラク・イスラム国」は、内戦が泥沼化した隣国シリアに戦線を拡大し、同国のアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」を統合したとされる。しかしヌスラ戦線やアルカイダ指導者が統合を否定するなど「イスラム国」と各組織の背後関係は不透明な面もある。
 いずれにせよ無差別テロは許されない。国際社会は毅然(きぜん)とテロに立ち向かう姿勢を堅持すべきだ。
 一方で、強力な軍事力でテロ根絶を追求するあまり、逆にテロ拡散を招いた9・11テロ後の国際情勢を鑑みれば、軍事行動は回避努力を尽くすべきだ。国際社会はイラク国民の融和、宗派対立の解消を、粘り強く後押ししてほしい。
 オバマ米政権は空母をイラク沖に派遣するなど「イスラム国」への軍事行動も視野に入れているようだが、独断専行は許されない。
 「大義なき戦争」と言われた03年のイラク戦争で同国の混乱を招いた米国は、自らの責任を自覚しなければならない。米国を支持した日本などの国々もしかりだ。まずはシーア、スンニ両派に影響力のあるアラブ諸国や国際社会に停戦への外交努力を強く求めたい。
 マリキ政権に強い反感を持ち、過激派を歓迎するスンニ派住民もいるという。イラクの国家統合がうまくいっていない証左だろう。政権も国際社会も宗派対立の解消へ向け、英知を結集すべきだ。