成長戦略 市場原理主義でいいのか


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 日本企業の国際競争力を高めるとの大義名分の下、大企業を優遇する半面、生活者への配慮に欠けるという印象は否めない。

 政府は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の「第3の矢」となる新たな成長戦略の素案を示した。安倍晋三首相が「岩盤」と呼ぶ農業、雇用、医療分野の規制の改革を打ち出した。法人税減税や労働時間規制の緩和など、経済界や投資家の要望をほぼ全面的に受け入れたのが最大の特徴だ。
 昨年6月に公表された成長戦略は、めぼしい政策に乏しく、アベノミクスの生命線である株価の急落を招くなど市場を失望させた。新たな成長戦略が「株価重視」と指摘されるゆえんだ。
 ただ、市場を意識するあまり、議論が生煮えとの批判も根強い。新成長戦略の具体的な制度設計はこれからで、スケジュールや数値が明確でないためだ。目玉とする法人税減税の財源の裏付けがないのが象徴的だ。
 一方、法人税減税の穴埋めとして、赤字企業でも対象となる外形標準課税の強化が取り沙汰され、中小零細企業へのしわ寄せが懸念される。雇用の規制緩和でも人件費の抑制や長時間労働を助長するとの批判もある。成長戦略の行方は不透明と指摘せざるを得ない。
 安倍政権が中小零細や家計に冷ややかと映るのは、「トリクルダウン理論」が見え隠れするからだ。滴が上から下にしたたり落ちるように、大企業が潤えば中小零細企業も栄え、やがて賃金上昇など社会全体に恩恵が及ぶとの考え方だ。
 ただ、この理論はあくまでも仮説で実証されたわけではない。しかも、この理論は、中央と地方の格差や貧困の拡大を招いた「小泉構造改革」にも通底する。
 過去、十数年の日本経済の停滞は、市場原理主義が、消費性向の高い若年・子育て世代の貧困を招いたからという指摘もある。だとすれば、安倍政権の生活者軽視の成長戦略は、効果が薄いどころか、むしろ経済の縮小を招かないか。
 さらにアベノミクスは、国家の繁栄のためには国民の痛みもいとわないという、国家至上主義的な考え方も見え隠れする。集団的自衛権の行使容認など安全保障政策とも重なるが、極めて危うい。
 成長戦略は、主役である国民の不安や不満を置き去りにしてはならない。理念から見直すべきだ。