クロマグロ養殖 沖縄型モデルを確立したい


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 名護市の羽地漁業協同組合が、近畿大学が世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロの稚魚を同市源河沖のいけすで育て、幼魚として出荷する事業に乗り出す。近畿大と提携する豊田通商(名古屋市)が、いけすの整備や育成技術指導など全面的に協力する。

 「海のダイヤ」とも呼ばれるクロマグロは乱獲で天然資源の枯渇が懸念されており、完全養殖による量産化技術の確立に向け、水産各社がしのぎを削る状況にある。
 沖縄近海はクロマグロの好漁場として知られ、先島諸島周辺の東シナ海も産卵場とされる。この沖縄の海を生かして、海洋資源保護に貢献する完全養殖事業に参画する意義は極めて大きい。
 近畿大は人工ふ化から育った成魚が産卵するクロマグロの完全養殖に2002年に成功した。豊田通商は10年に近畿大と提携し長崎県五島市で養殖事業を始めている。ただ、稚魚の成長は天候など自然環境に左右されるため、生存率向上やコスト削減が課題という。
 従来、クロマグロの養殖は、天然の稚魚を捕まえ、いけすで育てる「蓄養」が主流だ。
 だが、日米などの科学者や政府関係者でつくる国際機関「北太平洋まぐろ類国際科学委員会」は今年5月、太平洋のクロマグロは、乱獲が原因で依然として過去最低レベルの状態にあるとする報告書をまとめた。日本が最大の漁獲国かつ消費国であり、巻き網漁で3歳未満の未成魚が大量に捕獲されたり、蓄養目的で捕られたりしていることも問題視される。ワシントン条約で、いつ国際取引が禁止されてもおかしくない状況にある。
 水産庁は15年以降、未成魚の漁獲量を、02~04年平均に比べ半減するとしており、完全養殖による量産化技術の確立は待ったなしだ。
 羽地漁協の計画は、源河沖に直径30メートルの円形のいけすを6基設置。近畿大から提供される約6センチの稚魚を、約30センチの幼魚まで育てて出荷する中間育成を基軸とするが、
将来的には3年育てた成魚を出荷する構想も描く。現在、県に漁業権の取得を求めており、来年9月の許可を目指す。
 年中温暖な沖縄で稚魚の生存率が高まることが実証できれば、量産化に向け大きな弾みとなる。県内での雇用創出や水産振興の起爆剤ともなる。台風や赤土などのリスクもあろうが、官民挙げて沖縄型モデル事業として確立させたい。