戦争遺骨の焼骨方針 遺族の心を傷つけるな


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 沖縄戦で最愛の肉親を失った上に、遺骨の身元確認の望みまで断たれる。癒やされることのない戦没者の遺族の心を、再び傷つけるようなことがあってはならない。

 県が糸満市摩文仁の戦没者遺骨収集センターで一時保管する戦没者の遺骨を随時、焼骨する方針を決めたことだ。センターの遺骨仮安置室が満杯状態となったためだ。
 県は遺骨のDNA鑑定に備え、2013年度から焼骨を保留してきた。しかし厚生労働省の鑑定基準が厳しく、結局大半の遺骨は鑑定の実施に至っていない。
 焼骨で灰になればDNA鑑定は不可能になる。焼骨を急ぐ前に、保管場所の増設や鑑定条件の抜本的見直しこそ優先すべきだ。
 現在、安置室に保管されている遺骨は11年度~14年度途中までに収集された分の合計約400柱だ。厚労省がDNA鑑定を始めた03~13年度に沖縄戦戦没者の鑑定実施はわずか50件。このうち遺族が判明したのは県外出身の日本兵4人だけだ。
 これに対し、海外収骨を含む全体のDNA鑑定はこれまで1841件実施され、936件は戦没者の身元が判明した。沖縄の鑑定実績はあまりにも少ない。
 県内でDNA鑑定が進まないのは要件が厳しいためだ。厚労省は(1)識別できる遺品があり、部隊名簿などから遺族が推定できる(2)遺族が鑑定を希望し、家族が検体を提供できる(3)遺骨から鑑定に有効なDNAが抽出できる-を条件に挙げる。
 寒冷・乾燥気候の旧ソ連などでは遺留品や戦没者の所在に関する資料が比較的残されている。高温多湿な沖縄で保存の良さを期待するのは無理がある。兵士と違い、着の身着のまま戦場を逃げ惑った住民の遺留品所持も期待薄だ。
 1件当たり数万円のDNA鑑定を約400柱全てで行っても4千万円を上回るまい。遺族の検体を含めても数億円規模だ。普天間飛行場代替施設の建設費として3500億円以上を想定するのに、DNA鑑定実施のための数億円が工面できないというのは理不尽だ。
 今後数年間は、国費を集中投資してDNA鑑定を徹底すべきだ。遺族からの検体とそのデータベース化、鑑定施設の県内設置も進めてほしい。それによって国策の犠牲となった戦没者や遺族の無念にしっかり応えてもらいたい。