移駐後も県内訓練 「負担軽減」の偽装はやめよ


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 羊頭狗肉(ようとうくにく)、有名無実。そんな言葉が思い浮かぶ。日米両政府が示す「負担軽減」が形だけで、見掛け倒しだった例は数多いが、また一つ新たに加わった。

 普天間飛行場のKC130空中給油機15機の岩国基地(山口県)への移駐に関し、在沖米海兵隊は移駐後も沖縄で訓練を続ける方針を示した。移駐は空中給油機由来の騒音被害をなくすのが目的のはずだ。訓練を沖縄で行うなら騒音被害は変わらず続く。それでは移駐が意味をなさない。目的に照らせば、訓練も県外で行うのが当然だ。
 そうでなければ「沖縄の負担軽減」などと空疎な演技を続けるのはやめてもらいたい。
 海兵隊発表の前日、安倍晋三首相は移駐実施を高らかに表明した。訓練が変わらず沖縄で行われることは、その時点でも当然、日本政府も知っていただろう。それなら首相の表明は何だったのか。
 訓練が始まれば「負担軽減」が虚構にすぎないと沖縄で露見するのは分かり切っている。だとすれば首相の宣言は沖縄以外の全国向けだったということになる。
 在沖海兵隊の発表など県外ではまず知るはずがない。全国的には首相の移駐表明、すなわち「沖縄の負担軽減に努力」した姿だけが印象に残るはずだ。移駐後も沖縄が「負担軽減になっていない」と反発すれば、国民は「政府が努力したのに沖縄はなぜ反発するのか」と疑問視するだろう。首相の空疎な移駐宣言は、沖縄から全国世論を引き離すのが狙いではないか。
 「負担軽減」をめぐるこの種の見掛け倒しは枚挙にいとまがない。1996年には嘉手納・普天間の両飛行場で騒音防止協定を設け、午後10時~午前6時の深夜・未明には飛行しないと定めた。だが「米国の運用上、必要なものに制限される」と抜け道を設けたために、未明の離陸も頻繁にある。午前3時すぎに、聴力の限界(130デシベル)に近い120デシベルの爆音が響く住宅街など、沖縄以外のどこにあるか。
 環境汚染が発覚した際の自治体の基地立ち入りの規定もそうだ。政府は「運用改善」を強調したが、実際は立ち入り拒否の連続だ。
 この種の「負担軽減」は、偽装に時間を空費し、真の意味の負担軽減が後回しになるという意味でも罪深い。日米両政府は小手先の偽装に手間をかけず、在沖基地の大胆な削減に労力を投ずるべきだ。