河野談話検証 歴史と真摯に向き合え


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 政府は日本軍の慰安婦問題をめぐる河野洋平官房長官談話の検証結果をまとめた。

 検証の結果、河野談話の正当性は否定されなかった。結果を受けて菅義偉官房長官は談話を見直さないと強調した。談話を継承するならなぜ検証する必要があったのか。結局、悪化する一方の日韓関係を改善させるどころか、歴史問題で韓国を刺激し、新たな難題を持ち込んだにすぎない。
 河野談話の正当性に疑義をはさむより、河野談話以降に発掘された日本軍の関与と強制性を示す資料で談話を補強して日本が歴史と真摯(しんし)に向き合う姿勢を示すべきだ。
 検証の焦点は二つある。一つは日韓の文言の擦り合わせだ。慰安婦問題の解明を阻んでいるのは、裏付け資料の乏しさだ。日本軍が戦争末期に重要資料を廃棄したからだ。そこで談話作成過程で「日本側が事実関係をゆがめることのない範囲で、韓国政府側と調整した」ことが明らかになった。
 しかし河野談話以降、さまざまな資料が見つかっている。例えば2013年11月、海外の民間女性を強制連行したとの記述がある法務省の資料6点が見つかった。ことし3月には軍の関与を裏付ける資料も見つかっている。今後は、これらの資料を慰安婦問題の解明に活用すべきだ。
 二つ目は元慰安婦の証言の扱いだ。検証報告は、証言の裏付け調査を行わなかったと指摘した。プライバシーに配慮したことと、聞き取り調査終了前に談話の原案が作成されたので、談話づくりに決定的な影響を与えなかったからだ。
 資料が少ない中で証言は歴史資料として十分価値がある。沖縄戦の証言も裁判で重要な証拠と認められている。昨年来県した韓国人元慰安婦の金福童(キムボクトン)さんは「血のにじむ経験をした私が(強制連行の事実を)証言している。これ以上の証拠がどこにあるのか」と語った。あえて裏付け調査をする必要はないだろう。
 むしろまだ聞き取っていない元慰安婦がいるなら、速やかに聞き取りを実施すべきだ。慰安婦問題で日本の責任を追及した中国人元慰安婦李秀梅(リシュウバイ)さんが4月に亡くなった。今月も元慰安婦が老衰のため死亡した。歴史的事実を聞き取る時間は限られている。
 慰安婦問題を通して、各国が日本の歴史認識、人権感覚を注視していることを忘れてはならない。