北朝鮮の制裁解除 実効性ある調査実施が先だ


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 政府は北朝鮮に対する独自の経済制裁を一部解除した。解除されたのは人道目的の北朝鮮籍船舶の日本入港禁止措置、人的往来の規制、北朝鮮に対する送金の報告義務の3分野だ。制裁が一部解除されたのは、北朝鮮が拉致被害者の安否再調査などに関する特別調査委員会の設置を表明したためだ。まだ何の成果も出ていない。あまりに拙速ではないか。

 集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定後に実施された世論調査で、安倍内閣の支持率は47・8%で前回の6月から4・3ポイント下落した。不支持率は40・6%と第2次安倍政権では初の40%台に上昇している。安倍晋三首相が踏み切った集団的自衛権行使容認への国民の強い批判の表れだ。
 今回の制裁解除は、拉致問題があたかも大きく前進したかのような印象を与え、国民の関心を別のことに向けようとする操作との疑念を抱かざるを得ない。行使容認への批判を打ち消す、政権浮揚の道具に使ってはいまいか。
 調査委は金正恩第1書記の直轄組織と位置付けられており、安倍首相は「国家的な決断と意思決定ができる組織が前面に出て、かつてない態勢ができたと判断した」と評価している。だが調査委が今後、きちんとした調査結果を提示するのか、公平性の担保はあるのか。北朝鮮任せにするのではなく、調査が恣意(しい)的なものにならぬよう、日本が検証、関与できる仕組みを確立する必要がある。
 北朝鮮に拉致されたと日本政府が認定した被害者のうち、現在も安否が不明なのは横田めぐみさんら12人だ。全国の警察が拉致の可能性を排除できないと公表した行方不明者は約860人いる。うち北朝鮮での目撃情報などから「拉致の疑いが濃厚」とされるのは77人だ。調査ではこうした人たちの安否の全容を明らかにし、国民が納得できる結果を提示する必要がある。
 北朝鮮にとっても制裁解除は金第1書記が最高指導者となってから初の本格的な外交成果と位置付けられている。日朝両政権の権威向上のための政治的駆け引きに終わらせてはならない。拉致被害者家族会は「今回が最初で最後のチャンス」と話している。全ての拉致被害者が日本で待ち続ける家族の元に帰れるよう、実効性のある調査を実施する方が制裁解除より先ではないか。