沖縄密約敗訴へ 証拠隠滅を不問に付すな


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 1972年の沖縄返還をめぐる日米間の密約文書の開示訴訟で、最高裁は上告審判決の言い渡しを決めた。二審の結論見直しに必要な弁論を開いていないことから、原告逆転敗訴の二審判決が維持される見通しだ。一、二審とも密約の存在を認定している。一審では文書の開示を命じたが、二審では「秘密裏に廃棄された可能性がある」として不開示を妥当と判断した。司法が国家の証拠隠滅の責任を不問に付していいのか。極めて不当な判断だ。

 密約は沖縄返還で米側が負担すべき原状回復費400万ドルを日本が肩代わりするというものだ。毎日新聞の西山太吉記者が密約を示す外務省の機密公電を入手し、報じた。その結果、西山氏は国家公務員法違反(秘密漏洩(ろうえい)教唆)容疑で逮捕され、最高裁で有罪が確定している。
 政府はその後一貫して密約の存在を否定してきた。ところが、民主党政権が2010年に日米の密約を検証する外務省有識者委員会を設置し、密約を正式に認定した。今年1月に安倍晋三首相が衆院予算委員会で自民党政権が密約を隠蔽(いんぺい)したことについて「間違いだった」と述べたが、40年以上を経て過ちを認めたのはあまりに遅きに失した。政府の責任は重大だ。
 二審で判断されたように密約文書は廃棄された可能性が高い。01年の情報公開法施行に対応するため、外務省内で1999年から2000年にかけて各種文書の複写やメモ、下書きの廃棄が指示された。その際、公にされると都合の悪い多くの文書も捨てられた可能性のあることが重要文書廃棄に関する調査報告書で明らかにされた。密約文書もこの時点で破棄された可能性があるというのだ。
 西山氏は「日米共同で作った文書は永久保存しなければならず、廃棄は犯罪に等しい」と指摘した。正論だ。文書を暴いた記者が断罪された一方で、密約を交わし、文書を廃棄した政府側の人間は誰一人として責任を問われない。これが果たして民主国家といえるのか。
 成立した特定秘密保護法について政府は、沖縄密約を暴いた西山氏の報道が同法の処罰対象になるとの見解を示した。国家の大罪は放置され、国民の知る権利に応える報道が処罰されるのなら暗黒社会そのものだ。司法は不開示を追認するのではなく、密約文書を廃棄した責任の所在を追及すべきだ。