「憎悪表現」判決 差別や脅迫は許されない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)に再び厳しい審判が下された。人種や出自を理由とした差別的な行為は許さないという国民感情や国際世論にも合致した判決といえる。

 差別的な街宣活動で授業を妨害されたとして、朝鮮学校を運営する学校法人が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を訴えた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は一審を支持し、学校周辺での街宣禁止と損害賠償を命じた。判決は在特会の活動を「人種差別に当たり、法の保護に値しない」と指摘した。
 在特会による街宣活動は2009年末に始まった。拡声器を使った「不法占拠」「北朝鮮のスパイ養成機関」「朝鮮やくざ出てこい」という大音量の罵声が響き、泣きじゃくる児童を恐怖に陥れた。「朝鮮学校をたたき出せ」の連呼の中、校内は大混乱となり、150人の児童は事実上の監禁状態に置かれた。学校に駆け付けた保護者にも罵声を浴びせた。学校を襲った在特会のメンバーは自らの行動を「戦果」と称して動画サイトに投稿した。
 おびえて不登校になった児童もいる。心に深い傷を負ったのは間違いない。判決が「児童らは出自だけを理由に侮蔑(ぶべつ)的な攻撃にさらされ、精神的被害は大きい」と断じたのも当然だ。在特会側は「表現の自由の行使を一審に続き軽視されたのは残念」として控訴する方針だが、児童を脅すような常軌を逸した言論が「表現の自由」の範ちゅうにあるとは言い難い。
 ヘイトスピーチの広がりを受け、法による規制を求める声が国内で高まっている。ドイツや英国、フランスなどの欧米はヘイトスピーチそのものが「犯罪」に該当するのに対し、日本では規制する法律がないのが現状だ。ネットを通じて差別的発言が瞬時に広がるような事態に、現行法での対処は困難との指摘にはうなずける面がある。
 だが、憲法が定める「表現の自由」は、治安維持法などの法律によって国民の人権を侵した戦前の思想・言論統制の反省に立つものだ。差別や人権侵害は断じて許されないが、「ヘイトスピーチ規制」に乗じて一般的な表現活動まで公権力が縛ることはあってはならない。
 差別的表現を厳しく批判した高裁判決の精神を踏まえ、憲法が保障する表現の自由と人権に配慮した、ヘイトスピーチへの対処に向けた国民的議論を求めたい。