「可視化」最終案 これでは冤罪防げない


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 刑事司法改革を議論する法制審議会の特別部会が法制化のたたき台となる法務省の最終案を了承した。取り調べ全過程の録音・録画による可視化が義務付けられたのは5月の試案と変わらず全事件の3%程度にすぎない。これでは冤罪(えんざい)を防げるはずがない。

 殺人や放火などの裁判員裁判対象事件と特捜部などが扱う検察の独自事件だけでは不十分である。全事件を対象にした、しかも全過程の完全可視化を盛り込まない限り、法制化を認めるわけにはいかない。
 可視化は取り調べの正当性を証明するものである。捜査機関にとって何ら不都合はないはずだ。にもかかわらず約97%の事件には可視化が適用されない。対象から除外された事件では、冤罪があっても仕方がないとのメッセージを発信しているようなものである。
 可視化対象事件であっても3事例は例外とされており、可視化義務が骨抜きにされる恐れもある。
 録音・録画の例外となる「機器の故障」は予備の機器を備えることで解決できる。「容疑者が十分に供述できないと判断したとき」は、判断基準が明確でないまま捜査機関の裁量に任されることになる。この2事例は可視化しないための抜け道になりかねない。
 改革の原点は、不適切な取り調べで冤罪を生み出したことである。
 小沢一郎民主党元代表(現生活の党代表)の政治資金管理団体「陸山会」の収支報告書虚偽記入事件では、石川知裕元衆院議員の言ってもいない供述調書が捏造(ねつぞう)された。大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件では、厚労省元係長が「自分一人で実行した」と何度も供述したが聞き入れられず、村木厚子元局長(現事務次官)の「指示だった」との供述調書に署名させられた。
 刑事司法はこれらの事実を真摯(しんし)に受け止め、抜本改革を急ぐべきだが、最終案からはその決意を感じ取ることはできない。
 可視化の対象事件を狭める一方で、通信傍受の対象事件は拡大した。再審公判で確定判決を覆す可能性のある証拠開示制度は先送りしたものの、無実にもかかわらず取引に応じる危険性のある司法取引は認めた。新たな冤罪を生み出す危険性は残ったままである。
 真実を追求し、社会正義の実現という刑事司法の原点に立ち返って改革を推し進めるべきだ。