原発再稼働へ 優先すべきは住民の安全


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 原子力規制委員会(田中俊一委員長)は「原発の新規制基準に適合している」として九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働を事実上承認した。住民の安全をないがしろにした判断と言わざるを得ない。

 新基準は福島第1原発事故を教訓に炉心溶融や放射性物質の大量放出などの過酷事故対策を義務付け、地震、津波対策を強化したとされている。原発を再稼働させるためには新基準に適合していることが求められる。
 規制委は九電が申請した原発の安全対策の基本的な設計や方針を示した「原子炉設置変更」を新基準に基づき、厳格に判断したはずである。
 しかし田中委員長は「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない」と述べている。矛盾も甚だしい。安全対策が新基準に適合しているからこそ、規制委は合格証の原案となる審査書案を了承したのではないのか。
 安全と言えないのならば、不合格との結論しかないはずである。そうでなければ、新基準では安全性を担保することができないということである。
 規制委が審査書案を了承した影響は大きい。川内原発の地元・薩摩川内市の岩切秀雄市長は「国が決めた基準で審査しての結果なので、安全だと思う」と述べている。
 原発の安全性を保証していないにもかかわらず、安全だと誤解されている。再稼働に向けた地元の同意は安全性が担保されないまま、すんなりと得られそうな雲行きである。これでは住民はたまらない。
 川内地域では対象9市町村全てが避難計画の策定を終えている。しかし道路が渋滞する中での避難方法などは抜け落ちている。原発から10キロ圏外の病院、福祉施設にいる要援護者の避難計画も策定されていない。
 田中委員長は「避難計画は規制の範囲外で審査では評価していない」とし、避難計画の実効性などは所管外との立場である。規制委は原発そのものの安全を保証するだけの機関でしかないということだ。ならば、規制委の合格証は原発再稼働の絶対条件にはなり得ない。
 最も優先されるべきは住民の安全である。原発の周辺住民の安全を置き去りにしてはならない。新たな「安全神話」の創作も許してはならない。