DNA鑑定訴訟 子の幸福前提に法整備を


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 DNA鑑定で血縁がないことが分かっても、法律上の父子関係を覆すことはできない。夫婦や元夫婦が争った訴訟の上告審判決で、最高裁は血縁よりも法的な父子関係を優先する初判断を示した。

 子の身分を安定させるために民法が定めた規定を尊重した判断であることは理解できる。だが割り切れない面もある。法を重視するあまり血縁を軽んじてもよいのか、ということだ。
 「父子でないと科学的に証明されていても、法的な父子関係を取り消すことはできない」という判断が本当に子の幸福を保障するのか、慎重な見極めが必要だ。
 5人の裁判官でも意見が割れ、2人が反対意見を表明した。難しい判断だったことがうかがえる。
 裁判長の白木勇裁判官は反対意見で「民法の規定する嫡出推定の制度や仕組みと、父子の血縁関係を戸籍にも反映させたいと願う人情を適切に調和させることが必要である」との見解を示した。血縁関係を重んじる心情に照らせば、うなずける面がある。
 裁判で浮き彫りとなったことがある。現行の法制度の限界だ。
 今回の判決は「妻が結婚中に妊娠した子は夫の子と推定する」という民法772条の「嫡出推定」を根拠とした。この規定が生まれたのは1898年であり、離婚や再婚の増加など家族関係の多様化が進んだ今日の実情にはそぐわないという指摘が根強い。
 科学技術の進展も古い民法が想定しなかった事態だ。ほぼ100%という高い精度で血縁関係の有無を明らかにするDNA鑑定を、誰でも安価に利用できるようになった。「嫡出推定」の規定を根拠に父子関係を定めるのは時代遅れだという主張も否定はできない。
 現代社会を見据え、親子関係をめぐる新たな法整備が必要となっている。判決でも4人の裁判官が補足意見で立法措置を求めた。
 「旧来の規定が社会の実情に沿わないものとなっているのであれば、裁判所で個別に解決するのではなく、立法政策の問題として検討すべきだ」(桜井龍子裁判官)という指摘を無視してはならない。政府、国会は真摯(しんし)に受け止めてほしい。
 法整備の大前提は子の幸福追求である。旧民法の時代から今日まで幸せな子を育むという親子・家族の基本的価値は不変のはずだ。そのことを最優先に、時代の変化に対応した法整備を急ぎたい。