顧客情報流出事件 個人情報保護へ法改正急げ


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 見ず知らずの会社から子どもにまつわる勧誘や商品購入を促す電話やダイレクトメールが届き、不快な思いを抱いた人は多いだろう。

 通信教育大手ベネッセコーポレーションが保有していた児童・生徒をめぐる個人情報が大量に流出した問題が、刑事事件に発展した。
 事件は企業の情報管理のずさんさと、個人情報を転売する名簿業者とそれに群がる企業が個人情報を利益に結び付ける社会の闇を際立たせた。流出情報は最大で約2070万件に上る恐れがある。住所など居場所が分かり、子どもの安全に直結するだけに事態は極めて深刻だ。
 流出の経緯を徹底解明するとともに、個人情報が名簿業者によって簡単に売買できないように規制をかけ、不正に流れ出した個人情報の拡散を防ぐ手だてを早急に講じねばならない。監督官庁の経済産業省も責任を自覚すべきだ。
 個人情報が悪用され、実害が出て被害になるのではなく、流出した時点で被害となる-。個人情報に詳しい主婦連合会の佐野麻里子参事の指摘は的を射ている。
 警視庁が、ベネッセの顧客情報を持ち出したとして、不正競争防止法違反(営業秘密複製)容疑で逮捕したのは、顧客データベース(DB)の管理を担当していた元システムエンジニアの男だった。
 記録媒体に個人情報をコピーできない規制を擦り抜け、男はスマートフォンで大量の個人情報を抜き出して名簿業者に何度も売り、計250万円を得た、という。
 DBに接続できる権限を与えられたことを悪用した犯行だが、ベネッセは顧客情報流出に半年も気付かず、対応は後手に回った。責任は重く、原田泳幸社長が「顧客に多大な迷惑を掛けたという点で、加害者だ」と述べたのは当然だ。
 ベネッセは、謝罪や補償名目の費用として、年間純利益に相当する200億円を拠出する。情報管理への意識の低さ、ずさんな個人情報管理の代償の大きさを、社会全体で認識する機会と受け止めねばなるまい。
 住民基本台帳の閲覧禁止など、個人情報の保護意識の高まりと反比例する形でその価値が高まり、顧客情報の流出が相次いでいる。高値で買う名簿業者がいるからだ。
 だが、売り手側も買い手側も不正な情報と知らなかったと主張すれば、違反に問われない。その欠陥を是正し、個人情報保護を強化する法整備を急がねばならない。