幼児教育無償化 子育て支援の大幅拡充を


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 数ある政策分野の中で教育ほど投資効果が確実で、かつ効果の高い分野もないだろう。経済の発展だけでなく、文化の深まりも、社会・政治的制度の発展ももたらす。教育の効果はその人の生涯にわたるから、政策効果の長さも類を見ない。政策の優先順位を引き上げ、もっと大胆に拠出していい。

 その意味で歓迎すべき政策だ。政府・与党は3~5歳児の幼児教育無償化を段階的に進める方針を確認した。まず5歳児を対象に年収360万円未満の世帯で無償化する。早急に4歳、3歳へと広げ、その後は年収の対象世帯も広げてもらいたい。
 幼児教育がなぜ重要か。文字や計算を教えるのをイメージするが、必ずしもそうではない。集中力や好奇心を養い、挑戦する心を育むことで、その後の学力を大きく引き上げるということなのだ。
 その重要性を実証した米国の有名な社会実験がある。「ペリー就学前計画」だ。経済的に恵まれない3、4歳のアフリカ系米国人の子どもを対象に、午前中は学校で教育を施し、午後は先生が家庭訪問をして指導に当たった。これを受けた子と、同様の境遇にありながらプログラムを受けていない子を40年、追跡調査した。
 結果は顕著に表れた。就学後の学力の伸びだけではない。実験対象者は高校卒業率や持ち家率、平均所得が高く、生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出たのだ。政策の費用対効果を見ると、プログラムの経費1ドル当たり7・16ドルの公的財政支出削減をもたらした。幼児教育が「未来への先行投資」と言われるゆえんだ。
 幼児教育無償化は世界の流れだ。英国もフランスも既に3歳以上全員の無償化を実現した。韓国も就学前3年無償化を法制化している。
 日本は学校など教育機関への公的支出が国内総生産(GDP)比で3・3%(2008年)と、経済協力開発機構(OECD)加盟31カ国中最も低い。平均的所得の半分以下の貧困世帯に育つ子の割合(子どもの貧困率)は、日本が16%と先進国中最も高い。あの米国よりも高いのだ。貧困世帯で育つ子の割合が最も高いのに、政府に最も助けてもらえないのが日本なのである。
 貧困の世代間連鎖を断つ意味で、教育は極めて重要だ。高齢層に偏りがちな社会保障支出を子育て世代分で充実させるのも合理的だ。これこそ優先すべき政策であろう。