ジュゴン訴訟 米司法の賢明な判断望む


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画で、ジュゴン保護を求めた沖縄ジュゴン訴訟の原告と日米の環境保護団体が、米サンフランシスコ連邦地裁に基地建設中止の追加申し立てを提出した。

 移設問題では当然ながら米国も当事者である。地元の民意を無視し、天然記念物ジュゴンがすむ海を埋め立てようとする計画の妥当性について、米司法は審理を尽くすべきだ。
 追加申し立てでは、埋め立て予定地に隣接するキャンプ・シュワブの管理権を持つ米国防総省に対し、沖縄防衛局が進める工事の関連車両などの基地内立ち入り許可を出さないよう要求した。事実上、工事の差し止めを求めるものだ。
 訴えの根拠としているのは米の国家歴史保存法(米文化財保護法、NHPA)だ。米政府に対し、世界各国の文化財保護を求めている。
 ジュゴンは日本の文化財保護法に基づく天然記念物だが、辺野古移設事業で米政府はそれに配慮しておらず、NHPAに違反する-と原告らは主張し、国防総省に対し、ジュゴンをNHPAの適用対象とした2008年のジュゴン訴訟中間判決の順守を求めている。
 03年に連邦地裁に提訴された同訴訟は、08年にジュゴンへの影響を評価していないのはNHPA違反との判断が下り、国防総省にジュゴンの保全指針提出を求めた後、裁判が中断している。
 今回の追加申し立てで訴訟が近く再開され、最短だと半年程度で結論が出るという。その内容は事業の行方にも大きく影響しよう。
 日本自然保護協会によると、建設予定海域ではことし7月までの約2カ月間でジュゴンが海草を食べた食跡が110カ所以上発見された。大半は埋め立て予定地内で、甲殻類や海藻などの貴重な新種も見つかった。だがこうした事実は日本政府の環境影響評価(アセスメント)には記載されていない。
 国防総省は4月、日本側の環境アセスを基に連邦地裁に「ジュゴンへの悪影響はない」との報告書を提出したが、根拠が乏しいことは明らかだ。原告が指摘するように、NHPAが求める「利害関係者との協議」を満たしたものとも言えないだろう。
 原告は「海は世界の財産」と訴えた。豊かな海を埋め立て、軍事施設を造るという発想自体、環境保全を重視する21世紀の世界潮流に反している。計画撤回に向けた米司法の賢明な判断を望みたい。