原爆投下69年 核廃絶の原点に立ち返れ


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 原爆が広島と長崎に投下されてから69年が経過した。安倍内閣が憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使を容認した年だ。戦後、営々と守ってきた平和憲法が骨抜きにされた。日本が海外での戦争を遂行できる国へと突き進む中、史上初の核兵器による犠牲者を悼み、核廃絶と平和を誓う日を迎える。核廃絶への願いがこれほどないがしろにされる事態はあっただろうか。

 安倍晋三首相は昨年の広島・長崎それぞれの「原爆の日」の式典で「われわれには確実に核兵器のない世界を実現していく責務がある」と述べた。しかし安倍政権が向かっている道は正反対だ。
 政府が昨年公表した「防衛計画の大綱」には「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国による拡大抑止は不可欠」と主張している。広島、長崎に原爆を落とした米国の「核の傘」に依存していくことを宣言している。明らかに「核兵器のない世界を実現していく」姿勢とは程遠い。
 全国の被爆者は2013年度末で19万2719人となり、初めて20万人を下回っている。県内被爆者も200人を切って187人となった。被爆者が減少する中で「被爆体験の継承に不安を感じる」との声も聞かれる。
 島根県松江市の教育委員会が昨年、原爆を題材にした漫画「はだしのゲン」を市内全小中学校の図書館で許可なく閲覧できなくした。一人の男性の「偏ったイデオロギー」と非難する陳情書を受けての措置だった。批判を受けて撤回したが、被爆者の体験を矮小化(わいしょうか)し、現実から目を背ける動きが広がることに、強い危惧を抱かざるを得ない。
 9月にはインドのモディ首相が来日し、安倍首相と会談する。日本の原発輸出を可能にする原子力協定に向けた交渉をする予定だ。インドは過去に原子炉で生産したプルトニウムで核実験をした。核兵器製造に手を貸すことにならないか。安倍政権は世界最大級の核保有国の米国と集団的自衛権を行使するとし、原発も輸出しようとしている。「核兵器を持たず、つくらず、持ちこませず」の非核三原則を完全に空洞化しかねない。極めて危険だ。
 唯一の戦争被爆国の日本から核廃絶を主張する必要性がかつてないほど高まっている。政府は唯一の被爆国としての原点に立ち返り、核廃絶に真剣に取り組むべきだ。