外国人実習制度 不正監督機関の権限充実を


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 政府は外国人技能実習制度で企業などの不正行為を監督、指導する新たな機関を2015年度中に創設する方針を固めた。

 この制度の目的は外国の労働者を実習生として日本に受け入れ、習得した技術を母国の経済発展に役立ててもらうことである。しかし、賃金不払いや長時間労働など実習生を酷使するケースが後を絶たない。中には旅券や預金通帳を取り上げられるなどの人権侵害もある。
 新機関創設の政府の狙いは、実習制度維持へ向け国内外で理解を得ることであろう。だが新機関の第一の目的は、現状のような人権状況の改善でなければならない。重要なことは、約15万人の実習生が働く喜びを実感し、技術習得に集中できる環境づくりである。それを確実に実現してほしい。
 公益財団法人国際研修協力機構によると、過去約20年で突然死が疑われる「脳・心疾患による死」を遂げた実習生は87人、自殺は29人いる。月100時間を超える残業は珍しくないとの指摘もあり、過労死の疑いは拭えない。
 そもそもこの制度は、技術移転という名目はともかく、実態は政府が経済界の強い要請を受け、人手不足解消を目指して打ち出したものだ。だが米国務省の人身取引報告書は「強制労働」があると指摘している。ことが人権に関わるのに、政府の対応は遅きに失した観を否めない。日本自ら率先して対策を講じるべきだった。
 総務省によると、日本の就業者数は1997年の6557万人をピークに減少している。厚生労働省の試算では、女性や高齢者の就労が進まない場合、2030年の就業者数は5449万人に減る。
 少子高齢化による構造的な労働力不足の解消には外国人労働力が必要だとみて、安倍晋三首相は「外国人材の活用」も成長戦略に取り込む考えだ。だがそれは「ウインウイン(互恵)」の関係が前提でなければならない。
 実習生を含めた外国人労働者を安上がりの働き手とする認識を国民全体が改めなければ、労働力不足の抜本的な解決を図ることはできない。労働力の確保には待遇改善を含めた労働環境の整備が不可欠である。
 政府には新機関を充実させ、実効ある対策を講じる責任がある。併せて、小泉構造改革以来の労働法制改定が労働環境を悪化させた点についての反省も求められよう。