防衛白書 抑止一辺倒は危険だ


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 ことしの防衛白書は、集団的自衛権の行使容認に初めて言及し「歴史的な重要性を持つ」と指摘した。平和憲法を骨抜きにし、「戦争のできる国」へ転換をしたという意味で言うなら、確かに「歴史的」白書だ。

 白書は安倍政権がこの1年間で打ち出した新たな安全保障政策を網羅した。特に中国や北朝鮮の脅威を強調しており、日米一体化による抑止力の強化を目指す内容になっている。
 軍事力に頼った抑止力一辺倒の日本の対応が、アジアの不安定要因となっていることに気付くべきだ。求められるのは外交を通じて近隣諸国との関係改善を図り、緊張を緩和する姿勢だ。
 昨年の白書は集団的自衛権行使について「憲法9条のもとで許容される範囲を超えるものであり、許されない」と明記した。しかし、今回からその文言が消えた。その代わり新3要件を満たせば「憲法上許容される」と転換した。武器輸出三原則も消え、米国などと武器の共同開発を積極的に進めると記述した。
 昨年の白書は「沖縄における在日米軍の駐留」の項目で辺野古埋め立ての申請書を県に提出したことに触れ「政府の考え方を丁寧に説明しながら沖縄の人々の理解が得られるよう、誠実に努力している」と記述していた。だが今回「理解を求める」が消え、「知事の埋め立て承認を重く受け止め、速やかに事業に着手する」と前のめりの表現になっている。
 世論調査で県内移設に県民の7割以上が反対していることを忘れてはならない。仲井真弘多知事の埋め立て承認も7割が「公約違反」と批判している。民意を無視し、辺野古沖に巡視船だけでなく、掃海母艦の派遣まで検討する強硬姿勢は断じて許されない。
 白書は自衛隊の南西地域への重点配備も強調した。基本的考えは「島(とう)嶼(しょ)を占領された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど島嶼を奪回する」と説明している。「島の奪回」は「戦場化」と同義であるが、住民の安全確保には触れていない。軍の論理が貫かれている。
 白書は中国の海洋進出を「高圧的」と非難するが、安倍政権の沖縄に対する姿勢こそ高圧的だ。国民の理解を得る努力を怠り、戦後日本の「平和国家」像を転換させた政治手法は危険極まりない。