南シナ海行動規範 外交の英知で解決図れ


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 戦争は外交の失敗の結果である。その被害は国民、中でも社会的弱者に集中しがちだ。

 領土・領海問題はナショナリズムを強く刺激するから、交渉当事者は国民の反発を恐れ、妥協の決断を避けたがる。すると問題の平和的収束は遠のく。だが多くの国民の命より大事な問題などない。
 東南アジア諸国と中国の外相が南シナ海の紛争回避を目的とした「行動規範」の早期策定で一致した。緊張を高める行動の自制をうたった2002年の「行動宣言」を格上げし、法的拘束力を持たせるのが狙いだ。
 関係国の外交当事者は国家の体面にばかりとらわれず、国民の命を大切にする原点に立ち返り、実効性ある規定をつくってほしい。
 東南アジア4カ国と台湾は中国との間で南沙諸島の領有権を争う。ベトナムは西沙でも同様だ。中国は南沙で暗礁埋め立て、西沙で石油掘削を強行している。行動宣言を順守していないのは明らかで、宣言にどうやって法的拘束力を持たせるかが課題だった。
 行動規範策定に向けた協議は昨年11月に始まったが、実質的な進展は乏しい。フィリピンなどは「中国が話し合いの引き延ばしにかかり、その間にも現場では既成事実がどんどん積み重なっている」と危機感を募らせていた。
 その意味で今回、早期策定で明示的に合意した意義は大きい。中国との一対一の対決を避け、多国間協議の枠組みに持ち込んだ比越両国の外交の成果だ。中国もまた、「力による現状変更」が国際的な批判を浴びていたから、その払拭(ふっしょく)を図りたかったはずだ。その意味で利害が一致したのだろう。
 フィリピンが提案した(1)現状凍結(2)行動規範策定(3)国際法による決着-は傾聴に値する提案だ。中国は反対したが、各国は一致して中国に受け入れを促していい。
 ナショナリズムが制御不能になると容易に武力衝突に至る。その衝突は、一時のつもりが泥沼の戦争になりかねない。100年前の第一次世界大戦の経緯を見れば明らかだ。南シナ海も、平和的収束で一致したこの貴重な機会を逸してはならない。
 ナショナリズムを制御し、「海の火薬庫」と称された南シナ海を「平和の海」に変えることができれば、その外交の英知は長く称賛されよう。領有権問題解決のモデルになる。日本も傍観せず、当事者意識を持って協力すべきだ。