<社説>エボラ死者千人超 中長期視野で悪循環絶て


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 西アフリカで流行するエボラ出血熱による死者が12日までに、ギニアやリベリアなど4カ国で1013人に達した。1976年に集団感染が初確認されて以降、最悪の感染拡大を受け、世界保健機関(WHO)は開発段階の未承認治療薬の使用を容認した。

 WHOが条件付きながらも未承認薬の投与を認める異例の措置に踏み切ったのは、流行封じ込めに有効な手だてが見いだせず、事態がより深刻化していることの表れにほかならない。
 WHOは既に8日に緊急事態を宣言したが、「制御困難な状況」(キーニー事務局長補)の打開策は依然見通せないのが現状だ。国際社会は一刻も早い感染封じ込めに向け、各国がより協調して支援体制を強化する必要がある。
 治療薬は、米製薬会社が開発中の「ZMapp(ジーマップ)」で、富士フイルムホールディングスのインフルエンザ治療薬なども検討されるとみられる。ZMappなどの抗体医薬は治療効果が未知数の上、高価で大量生産が難しいなど課題も山積する。治療薬による流行封じ込めに過度の期待は禁物だが、手をこまねいているわけにはいかない現地の過酷な状況を私たちは直視する必要があろう。
 地域の医療体制が極めて脆弱(ぜいじゃく)なことが、医療従事者の感染を防げず、状況をさらに悪化させる悪循環に陥っているという。シエラレオネの国立病院で治療活動に当たった米医師によると、スタッフは防護服を着ずに患者と接し、相次いで感染。感染を恐れる看護師らがストライキを起こすなど、医療スタッフが不足する深刻な事態も招いているという。
 アフリカでは葬儀で遺体を触る習慣があることも流行拡大の要因の一つとされる。異なる宗教や死生観などもあり容易ではないが、感染封じ込め策に対する現地の理解と信頼を得る努力も不可欠だ。
 そもそもエボラ出血熱は、空気感染することはなく、症状のある患者に触れたり、吐いた物や便などに触れなければ感染しない。シエラレオネの病院では重症患者のベッドに穴を開け、下に置いたバケツで便を受け止めていたという。こうした劣悪な医療環境の改善もまた急務であり、国際社会は早急に取り組まなければならない。
 中長期的な支援体制の構築はエボラ出血熱に限らず、さまざまな感染症対策にもつながるはずだ。