<社説>健康産業育成へ 空手形の政策にするな


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 経済産業省は地域活性化策の一環で、地方での健康産業に資金供給する数十億円規模の基金を9月にも設立する。地元経済を支える中核企業を重点支援するほか、ベンチャー企業も政府調達で優遇し、地方の雇用拡大で働き手の流出に歯止めをかける。

 こうした取り組みの目的にはいくつかの側面がある。(1)国民の健康寿命の延伸(2)健康増進による医療費抑制(3)地方の企業育成による人口流出防止(4)成長分野の健康産業の支援による新たな市場創造-などだ。国民が健康になり、寿命も延びて、地域活性化と産業振興に結び付くのなら、意義深い取り組みだ。
 健康産業は駅や商業施設の一角を利用し、数百円程度で受けられる簡易な健康診断や、医師の処方箋に基づくフィットネスクラブでの運動指導サービスなどが代表例だ。公的な医療・介護を補う事業として期待が高まっており、安倍政権の戦略市場創造プランでも「公的保険外のサービス産業の活性化」が打ち出されている。企業の中にも健康産業の拡大をにらんだ動きが活発化しており、新たな市場として注目すべきだろう。
 県内でもホテルを経営する医療法人が健康改善合宿などの取り組みを始めている。離島や本島を取り囲む海、やんばるの森など沖縄の豊かな自然環境を生かせば、健康産業を創出する上で他県にはない有利な条件がそろっているともいえる。基金を利用して県内の、特に過疎地域での健康産業創出につながるような知恵を絞りたい。
 県は4月に発足した「健康長寿おきなわ復活県民会議」で生活習慣改善を県民一人一人に呼び掛けている。しかし2013年の県内事業所の定期健康診断で「異常」が見つかった労働者の割合「有所見率」は3年連続で全国ワーストだった。健康産業の拡大で県民の健康を増進し、さらに観光客誘致にもつなげたい。
 安倍政権が地域経済活性化の「地方創生」に重点政策の軸足を置き始めたのは、来春の全国統一地方選をにらんでのことだろう。滋賀県知事選では集団的自衛権問題の影響で与党推薦候補が敗退しており、安保政策を後景に退けて苦戦を回避する狙いがあるのではないか。選挙目当ての空手形ではなく実効性ある地域活性化の方策が必要だ。人口減少を反転させ得る大胆な具体策を求めたい。