<社説>空域拡大 「負担軽減」逆行許せない


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 米軍キャンプ・シュワブ、キャンプ・ハンセンを合わせた「中部訓練場」の上空で実弾射撃訓練を実施するために、米軍は飛行制限高度を拡大する。

 沖縄は県土の42倍に及ぶ9万5千平方キロの制限空域が設定されている。制限高度を広げることは、その空間から県民を閉め出すことになる。本来行使できるはずの空の主権を県民から奪い、負担軽減と逆行する行為は決して認められない。
 制限空域の高度は現在、約610~914メートルと設定している。米軍はそれを2倍以上の約1219~2469メートルの高さまで引き上げる予定だ。
 制限高度を拡大することによって、AH1攻撃ヘリなどの航空部隊が、小型武器の射程が届かない高さまで上昇して実弾射撃訓練を実施することが可能になる。
 ハンセンではかつて実弾がたびたび基地外に飛び、自宅にいた女性の足を貫いたこともある。そんな狭い基地で2キロ上空まで実弾を撃つのであれば、人命軽視も甚だしい。
 日本政府は現在、米軍普天間飛行場の移設先として名護市辺野古で新基地建設を強行している。
 新基地は、滑走路が2本に増設され、普天間飛行場が有していない軍港機能が加わる。そして今回判明した新基地を取り囲む中部訓練場の空域を拡大することによって、これまで都市部では制限されがちだった訓練の「自由度」が高まる。「負担軽減」とは正反対だ。
 歴史を振り返ると、太平洋戦争で沖縄を手に入れた米国は、事実上の軍による統治を正当化するため、沖縄は「民主主義のショーウインドー」だと、ことあるごとに宣伝した。
 しかし、実態は「銃剣とブルドーザー」によって県民の土地を奪い、女性に対する性暴力をはじめ、殺人、人権侵害、自治権制限など、民主主義とは程遠い統治を続けた。私たちはその事実を決して忘れない。
 「負担軽減」という言葉は、かつての「ショーウインドー」と同じような響きがある。そのような甘言に沖縄はだまされない。
 米国が決めたことに日本は追認するだけなのか。主権が侵害され、民主主義とは名ばかりの事態が繰り返されている。沖縄の告発に日米両政府は真摯(しんし)に向き合うべきだ。