<社説>広島土砂災害 迷うときこそ避難勧告を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 広島市を中心とした局地的豪雨で広範囲な土砂崩れや土石流が発生し、39人が死亡、50人以上が行方不明となった。二次災害の危険性から捜索できない地域もあり、人的被害はさらに増える恐れがある。

 最初の避難勧告は午前4時15分だった。市消防局は「勧告をちゅうちょした」と松井一実市長に報告している。
 豪雨の中を避難する危険性も考慮しなければならず、判断が難しいケースではある。だが、周辺地域が県の「土砂災害警戒区域」に指定されていることを考えれば、早めに避難勧告を発表するべきだった。
 広島県の地質は水を含むと崩れやすくなる「まさ土」が広がり、専門家の間で「特に土砂災害の多い地域」として知られている。1999年6月の豪雨でも土砂災害が発生し、水害被害も含め県内で32人の死者・行方不明者が出た。その重い経験を生かせなかったのは痛恨の極みだ。
 高齢者や障がい者らに早めの準備を促す「避難準備情報」を活用しなかったことも悔やまれる。
 自然の力は私たちの想像を超えた脅威となることがある。「避難勧告を迷ったときこそ積極的に発表する」というようなルールを確立する必要もあろう。当局には当然、慎重な判断が求められるが、住民の側も避難勧告が発表されて何も被害がなければ、当局を非難せずに「被害がなくてよかった」などと理解する態度が必要だろう。
 沖縄県内でも2006年6月に中城村で大規模な地滑りが発生した。国の調査によると、北中城村から中城村、西原町に至る延長約8キロ、約900ヘクタールの広範囲で地滑り危険箇所が連続して分布する。
 広島市のような局地的豪雨の際に、避難勧告を発表するタイミングを誤ることがないよう、シミュレーションを定期的に実施するなどして万全の備えを求めたい。
 それにしても夏休み中とはいえ、安倍晋三首相の一連の対応は問題だ。被災者の救命、救助に全力で取り組むよう関係省庁に指示した後、ゴルフを始めた。切り上げて午前11時前に官邸に戻りはしたが、よくプレーを始められたものだ。夜には再び山梨県の別荘に戻っている。
 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の際「国民の命を守る」と強調したが、内実は全く逆である。被災地の気持ちを思えば、言語道断だ。