<社説> 医療費の県別目標 過度な抑制強いられる危険


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 政府は膨れ上がる医療費を抑制するため、都道府県ごとに医療費の支出目標設定を打ち出した。

 患者の窓口負担と保険料、公費を合わせた医療費は高齢化などの影響で増加傾向が止まらない。
 2013年度は予算ベースで41兆8千億円と1990年度の20兆6千億円の約2倍に膨らんだ。伸び率は国内総生産(GDP)を上回っており、GDPに対する比率も年々高まっている。
 財政が破綻しては元も子もない。無駄な医療費を削減するための努力には異議はない。だが支出目標の設定、それも都道府県ごとに設定することには違和感がある。
 設定された支出目標に自治体が縛られ、過度な医療費抑制を強いられる危険性はないか。
 日本医師会など医療関係者からは支出目標を設定すれば、必要な地域医療が提供できなくなる恐れがあるとの声が上がっている。そのような状況に陥ることだけは避けねばならない。
 有識者による専門調査会は地域ごとの適正な病床数や人口、年齢構成などを踏まえて支出目標設定のための算出方法を示すことにしている。
 沖縄など医療費が比較的少ない地域では、必要な医療が住民に行き届いていない可能性がある。各都道府県で異なる医療実態を反映した合理的な算出方法を確立できるだろうか。
 医療費全体を押し上げる要因の一つとして、地域の受け皿がないため、医療上必要性が低いにもかかわらず退院できない「社会的入院」が指摘されている。政府にはその解決に向けた施策を確立してもらいたい。
 医療費の支出目標は、今年6月に閣議決定された経済財政運営の基本的な考え方を示す「骨太方針」に盛り込まれたものである。
 医療費が経済成長や健全な財政運営の足かせになりかねないとの危機感の表れからの抑制策でしかない。国民の健康と命を守ることを主眼に据えるべきである。
 13年6月の「骨太方針」では財政を圧迫しているとして生活保護の「不適正、非効率な給付を是正する」と抑制方針を示し、生活保護法を改正した。
 財政健全化は喫緊の課題だが、相次ぐ社会保障費の抑制が、医療を必要とする人を切り捨てるものであってはならない。