<社説> 「憎悪表現」審査 日本の「人権」問われている


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 日本でのヘイトスピーチ(憎悪表現)に対し、国際的にも厳しい目が注がれている。

 国連人種差別撤廃条約の履行状況を監視する人種差別撤廃委員会の対日審査会合で、各国の委員からヘイトスピーチへの懸念と日本政府に法規制などの対応を求める声が相次いだ。
 国連人権委員会も7月、対日審査の最終見解で差別をあおる全ての宣伝活動の禁止を勧告している。国際的に日本の人権感覚が問われていることを認識し、差別撲滅に立ち向かうべきだ。
 ヘイトスピーチを象徴する「在日特権を許さない市民の会(在特会)」などの団体は「在日韓国・朝鮮人を殺せ」「たたき出せ」など激しい言葉を浴びせ、在日韓国人などが多い東京・新大久保や大阪・鶴橋などでデモ行進を繰り返している。
 戦前でも戦中でもなく、現代の日本社会の中での光景に慄然(りつぜん)とする。人種、民族、国籍、宗教などを理由に理不尽な言葉の暴力を浴びせられた人たちの胸中を思うと憤りを禁じ得ない。少数者に向けられた憎悪を人ごととして黙っていてはならない。
 2013年1月に県内41市町村の首長らがオスプレイ配備反対を訴えて都内を行進した時だ。日章旗や旭日旗を手にした団体が「売国奴」「非国民」などとののしった。
 不寛容な社会の広がりは、やがて高齢者、障がい者、貧困者など弱者にも矛先を向けかねない。社会が一歩踏み出し、理不尽な差別的発言、行為を絶対に許さない土壌づくりが欠かせない。
 欧米には、法規制する国もある。2020年の東京五輪を前に法規制を求める声もあるが、慎重であるべきだ。治安維持の名の下に表現の自由など人権を踏みにじられた歴史的経緯がある。
 制度的整備が必要なら、国から独立した第三者の人権救済機関にすべきだ。
 ヘイトスピーチを繰り返す団体の構成員も個に戻れば、大半は普通の人たちだ。差別撲滅への一歩は、時間はかかってもやはり啓発と教育に尽きる。
 慰安婦や領土問題で韓国、中国との政治的関係がぎくしゃくしていることも無関係ではあるまい。
 市民の不毛な憎悪を生まないためにも、国は両国との関係改善に取り組むべきだ。