<社説>東電に賠償命令 再稼働への警告受け止めよ


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 原発事故と自殺の因果関係を認める画期的な判決と言える。住民の避難生活をめぐり、東京電力の免責を許さない姿勢を司法が明確に示した意義は極めて大きい。

 福島第1原発事故で避難を強いられ、自殺した女性の遺族が起こした損害賠償訴訟で、福島地裁は東電に約4900万円の支払いを命じた。東電によると、原発事故が原因で自殺したとして賠償請求した訴訟で初の判決だ。今後の裁判の先例として大きな影響を与えるのは必至だ。
 福島地裁は「展望の見えない避難生活への絶望と、生まれ育った地で自ら死を選んだ精神的苦痛は極めて大きい」と因果関係を認定。その上で「住民は避難を余儀なくされ、ストレスで自死(自殺)に至る人が出ることも予見できた」と東電の責任を厳しく指摘した。
 悲しみと苦悩を募らせる遺族に寄り添った判決であり、「全面勝訴」(原告側弁護士)とも言える内容だ。東電は真摯(しんし)に受け止め、直ちに賠償金を支払うべきだ。
 東日本大震災と原発事故から3年半近くが経過するが、不自由な仮設住宅暮らしなどを強いられる震災の避難者は今なお24万人を超える。特に福島では、自主避難を含め12万5千人が県内外で避難生活を続けている。
 国と東電は、復興が遅々として進まず、生活再建から程遠い現状を直視すべきだ。過酷な避難生活がもたらす耐え難い精神的苦痛は、人間の尊厳を踏みにじっているも同然だ。それを放置する国の責任もまた計り知れない。
 内閣府によると、福島県の震災関連の自殺者は、統計を取り始めた2011年6月以降、56人に上る。11年10人、12年13人、13年23人と増え、14年も7月までに10人を数える。避難生活が長引くに伴い、増加傾向が顕著となっている。東電は個別の裁判を待つことなく、率先して賠償に応じるべきだ。
 原発事故で自殺者が出ることが予見できたとする判決は、裏を返せば、原発事故を回避する責務を厳しく課すものだ。それは、過酷なフクシマの現状に目を背け、原発再稼働に前のめりになる安倍政権や電力会社に対する警告にほかならない。
 安倍政権は、再稼働に向けて新たな「安全神話」づくりにきゅうきゅうとしているが、安全神話を根底から覆した事故の教訓を思い起こすべきだ。「脱原発」にかじを切るのは今からでも遅くない。