<社説>ロシア軍侵入 裏切りやめ停戦を導け


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 ウクライナ情勢が再び緊迫の度を高めている。

 ウクライナのポロシェンコ大統領は、同国内にロシア軍部隊が侵入し、親ロシア派との戦闘が続く東部ドネツク州内の国境の町が制圧されたとする声明を出した。
 北大西洋条約機構(NATO)が証拠としてロシア軍の自走砲の車列の衛星写真を公開した。ポロシェンコ氏はロシア兵の数は数千人に上るとし、欧米諸国は一斉に非難している。
 問題の発端となったクリミア半島の編入に続くロシアの軍事介入そのものだ。ウクライナの主権を侵害する行為であり、到底容認できない。情勢の緊迫化は、7月にウクライナ東部で起きたマレーシア航空機の撃墜事件の真相解明にも影を落としている。
 ロシアのプーチン大統領は直ちに不当な介入をやめ、兵を撤収すべきだ。ロシアがなすべきは、親ロ派への軍事支援を中止し、影響力を行使して停戦の道筋を付けることだ。
 ポロシェンコ大統領とプーチン大統領は先月26日に会談したばかりである。ウクライナ軍と親ロシア派勢力の早期停戦の必要性で一致し、停戦に向けた行程表を作ることでも合意していた。
 ウクライナ東部でのウクライナ軍と親ロ派勢力の戦闘による死者は2千人を超えている。即時停戦は国際社会を挙げた要求であり、首脳会談は和平への期待を高めた。
 こうした局面でのロシア軍投入は、親ロ派勢力への武器供与などの間接支援から直接的な軍事介入への転換を意味する。和平の機運をぶち壊す裏切りにほかならない。
 劣勢だった親ロ派勢力を支えて形成逆転を図り、ウクライナとの交渉を有利にする狙いも指摘されている。親ロ派の巻き返しに呼応するかのように、プーチン大統領はウクライナ軍に対し、即時停戦とロシアの息がかかった東部の代表者と協議するよう求めている。
 平和解決を目指すそぶりを示した上で、軍事的手段で圧力を強める。独善的な二枚舌外交は国際社会からの孤立を招くことをプーチン氏は自覚すべきである。
 欧州連合の臨時首脳会議は「ロシアの侵略」と非難し、対ロシア追加制裁を1週間以内に準備することで合意し、オバマ米大統領は3日に訪欧する。国際社会は毅然(きぜん)とした姿勢をロシアに示し、危機打開に一層知恵を絞ってほしい。