長く生きることは豊かなことである。戦中戦後の苦難の時代を生き抜いた高齢者は社会の財産だ。
きょうは「敬老の日」。
老いることに価値を見いだし、人生の最後まで豊かに生きることができる人を一人でも増やしたい。地域社会がその環境をどう築き、支え合っていくのかを考えたい。
県や厚生労働省によると、県内の100歳以上の高齢者は962人で、1972年の統計開始以来、最多を記録した。
一方、人口10万人当たりの人数は67・99人で全国11位となり、昨年より三つ順位を落とした。沖縄は昨年も三つ順位を下げた。
健康長寿に陰りがあるのか。行政側は出生率が全国一高く、子どもが多いことが高齢者の割合を下げていると指摘するが、2年間で5位から11位に下げた要因を冷静に分析する必要がある。
高齢者を取り巻く状況は全国的に険しさを増している。
ことしになって、認知症の増加と相次ぐ行方不明者がクローズアップされ、社会全体で目を向けねばならない課題となっている。
2013年に認知症で行方が分からなくなり、警察に届け出があった不明者は1万322人に上る。12、13年に届け出があったうち、ことし4月時点で所在確認できない不明者は258人に上り、県内は94人でうち2人は死亡していた。
遅きに失したが、警察庁は市町村との情報共有などの対策を全国の警察に指示している。
家族や親類だけの見守りでは限界がある。県内では、久米島町で「SOSネットワーク」が始動している。事前に登録したお年寄りが行方不明になると、関係する30団体が情報を共有して早期発見につなげる仕組みを確立している。他市町村でも、地域を挙げた見守り活動を拡大しなければならない。
4月からの社会保障制度の変更は、全国の高齢者の生活に重荷となっている。70~74歳の医療費は窓口負担2割への引き上げが始まり、年金の0・7%減額など、負担が増した。
政府は高齢社会の未来図として「住み慣れた地域で暮らす」を挙げるが、少子高齢化が進む地方と大都市圏との格差を解消しないと、高齢化率の急上昇と過疎が進み深刻な危機が到来するだろう。
豊かな老後を築くには、安心して暮らせる環境が不可欠だ。高齢者を慈しみ、その役割を確保する地域社会の営みが極めて重要だ。