<社説>官房長官来県 沖縄の現実を直視すべきだ


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 菅義偉官房長官が来県し、米軍普天間飛行場の移設予定地である名護市辺野古沖をヘリコプターで視察し、仲井真弘多知事と会談した。3日の内閣改造で新設された「沖縄基地負担軽減担当」を兼務したことを受けたものだ。

 菅氏の基地負担軽減担当の肩書には、いまだに多くの県民が違和感を拭えないでいる。菅氏が、地元名護市や県民世論の反対を無視して安倍政権が強行している普天間の移設作業の旗振り役となっているからだ。県内から「負担軽減ではなく、基地押し付け担当だ」と反発を招いたのも無理からぬことだ。
 菅氏は担当を兼務するに当たり「負担を目に見える形で軽減し、県民の思いに寄り添い、しっかり結果を出す。明確なメッセージだ」と語った。だが臨時国会が近づく中での駆け込み視察には、11月の知事選を前に「移設先は辺野古しかない」との安倍政権の「明確なメッセージ」を県民に印象付ける思惑があることは明らかだろう。
 案の定、菅氏は知事との会談で「普天間の固定化は絶対に避けなければいけない。国と県の共通認識だ」と述べた。辺野古埋め立てを承認した知事との協調姿勢をアピールしつつ、辺野古移設が実現しなければ普天間が固定化するとの考えを強調した格好だ。
 菅氏が今回会談した地元関係者は知事と佐喜真淳宜野湾市長だけだ。移設に反対する地元の名護市長とはなぜ会わないのか。これでは「県民の思いに寄り添い」という表明は空々しく聞こえるだけだ。
 菅氏は先日、移設問題に関して「最大の関心は県が埋め立てを承認するかどうかだった。もう過去の問題だ。(知事選の)争点にはならない」と言い、県民のひんしゅくを買った。世論調査では約8割が移設作業の中止を求めている。県民の率直な意見には耳を傾けず、これで「沖縄の状況を視察してきた」と説明されてはたまらない。
 民意を無視して作業が強行される状況を、多くの県民が苦々しく見ている。20日には辺野古で大規模な集会も再度予定されている。辺野古は過去ではなく、現在進行形の問題であるという現実を直視すべきだ。
 基地負担軽減担当として本来の職責に真摯(しんし)に向き合うなら、せめて知事選まで移設作業を止め、県民の審判を見守るべきではないか。民主主義国の閣僚として最低限の姿勢を示してもらいたい。