<社説>認知症の身元不明 見守り手増やす取り組みを


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 認知症で徘徊(はいかい)し行方不明になる人が社会問題化する中、厚生労働省が5月末時点で身元が分からないまま施設に保護されている人が沖縄を含め計10都府県で35人いると発表した。

 自治体が2013年度に把握した認知症の行方不明者は5201人で、そのうち発見されていない人は132人、見つかったが既に死亡していたのは383人だった。先に警察庁が公表した同様の不明者は13年で1万322人に上り、自治体が把握する数より多い。
 不明者家族の心労はどれほどのものだろうか。家族だけでなく、地域でどう見守るか、保護された時に行政の縦割りを越えて迅速な身元確認ができる仕組みをどうつくるかが急務だ。
 身元確認の決め手は顔写真だが、多くの自治体は個人情報保護の観点から公開には二の足を踏む。
 しかし、当事者を帰すべき家族の元へ帰してあげられなければ、個人の尊厳など守られない。本末転倒ではないか。
 大阪府警は、警察では初めて保護された人の写真付き台帳を各署に置いた。閲覧は行方不明を届け出た家族らに限り、個人情報保護を担保した。同様な動きが広がることを期待したい。
 行方不明者は遠隔地で保護されることもままある。全国の警察、自治体が連携を強め、近隣の県や自治体まで幅広く身元確認できる仕組みが欠かせない。
 行方不明になるリスクがあるとはいえ、認知症の人は住んできた地域でその人らしく生きることが理想といえる。しかし、家族だけで24時間見守るのは限界がある。
 「安心して徘徊できる街」を目指す福岡県大牟田市の取り組みは参考になる。
 高齢化率が30%を超える同市は、徘徊中の高齢者の死亡をきっかけに自治会や社会福祉協議会、警察などが横断的組織をつくり、当事者やその家族を支える。年2回、行方不明者を地域ぐるみで捜す訓練もある。「大牟田方式」は全国でも有名だ。
 「どちらまで」など気軽な声掛けで十分だ。住民をはじめ、コンビニや郵便局など地域で働く人たちを見守り手として着実に増やしていけば、いざという時の力になる。認知症は予備軍も含め800万人といわれ、誰もが当事者やその家族に成り得る。わが事という意識で取り組みたい。