<社説>防衛指針先送り 改定自体取り下げるべきだ


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 政府は自衛隊と米国の役割分担を定めた日米防衛協力指針(ガイドライン)について米国と合意した年内改定にこだわらず、年明け以降に先送りする方向で調整に入った。理由は安全保障法制整備の作業本格化を控え、与党内に亀裂を生む事態を避けるためのようだ。

 安倍政権は関連法案の与党協議を11月にも始める方針だが、集団的自衛権の行使容認に慎重だった公明党の理解が得られる確実な見通しが立ってない。このため統一地方選後の来年5月ごろの改定も視野に入れている。選挙を有利に運ぶための国内政治を考慮した極めて場当たり的な方針変更だ。国民の理解を得られない拙速な手続きだったことを政府自らが認めたようなものだ。
 指針は冷戦時代の1978年にソ連(現ロシア)の上陸侵攻を想定して策定された。94年の北朝鮮核危機を受け、97年に日本周辺事態での日米協力を盛り込んだ内容に改定され、両政府は今年末までに再改定することで合意していた。指針の年内改定を前提にしていたからこそ、安倍政権は集団的自衛権行使容認を7月に閣議決定するなど作業を加速させていたはずだ。
 先送りは指針の改定だけにとどまらない。安全保障関連の法整備も来春以降に先送りする方向で調整している。当初は集団的自衛権に関する本格的な法整備は来春とする一方で、グレーゾーン事態や国連平和維持活動(PKO)に関する法整備は秋の臨時国会で先行させる予定だった。こうした法整備も先送りする理由は、安倍内閣の支持率が下落したことや11月投開票の沖縄県知事選などへの影響を考慮したからのようだ。国民の風向きや政権浮揚ばかりに気を取られたご都合主義の極みだ。
 8月の全国世論調査では、集団的自衛権行使容認への反対は60%に上る。安倍政権が突き進もうとしている戦争ができる国の実現に対して、多くの国民が同意していないことを裏付けている。
 指針改定の作業では自衛隊の米軍基地の共同使用や日米演習の在り方も議論されている。沖縄・南西諸島などの警戒監視活動を強化する「動的防衛協力」が柱という。在日米軍専用基地の74%が集中する沖縄に、これ以上の機能強化は断じて容認できない。政府は国民の理解が得られていない指針の改定も安保法制整備も先送りではなく全て取り下げるべきだ。